11月初旬に遡る。
久しぶりに映画の梯子に銀座へと向かった。
『マーガレットと素敵な何か』(2010仏=ベルギー)
『ベニスに死す』(1971伊=仏)
『さすらいの女神たち』(2010仏)
『マーガレット―』は、バリバリのキャリアウーマンの主人公(演:ソフィー・マルソー)が、40歳の誕生日を迎えたその日、出身村の公証人から、7歳の自分からの手紙を届けられ、最初は戸惑いつつも、かなぐり捨てた過去と向き合い、恋人からのプロポーズを受け、母になろうと決心するという話。
『ベニスに死す』は、説明不要のルキノ・ヴィスコンティ監督による傑作映画。
初老の作曲家、グスタフ・アシェンバッハが、滞在先のヴェニスで、美少年・タジオに心奪われ、無理な若作りの化粧などするが、タジオに想いを打ち明けることなどせぬまま、ヴェニスに蔓延するコレラに罹り、死を迎える。
こう書くと、極めて不敬なことだが、床屋の勧めるまま、お白粉を塗り、頬紅をさされるアシェンバッハの姿を見ていると、『恐怖劇場アンバランス』の初回・「木乃伊の恋」(鈴木清順監督作品!)で、即身仏の生まれ変わりの筈の定助が、色気づいて、化粧を塗りたくり、奇行に走る姿を連想してしまった。
『さすらいの女神たち』は、旅回りのショー・グループ〈ニュー・バーレスク〉を率いる、元・TVプロデューサー、ジョアキム・ザンドの話。アメリカで成功を収め、祖国・フランスへ凱旋するも、パリ公演がつぶれてしまい、一人奔走するが…。
『マーガレット―』と『さすらいの女神たち』が、「シネスイッチ銀座」で、『ベニスに死す』が「銀座テアトルシネマ」での上映。
本来ならば、「シネスイッチ銀座」で2本続けた後、『ベニスに死す』の方が良いのだが、時間の都合がつかず、一度離れて別の映画館へ行ってから、また戻るという変則行動となった。
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映画の梯子をする際、自分で決めているのは、
1.どんなに感動しようが、良いと思おうが、又その逆であろうが、余韻を引きずらない。潔く、次の映画のことだけを考える。
2.前に観た作品との比較はしない。
3.なるべく異なる傾向の作品、異なる国の作品を組み合わせる。
4.劇場の街、場所は、極力近いところを組み合わせ、又、間の時間を空けない。
5.眠たくなったら諦めて寝る。
以上である。
「5」は、ちょっと勿体ない気もするが、元々暗闇の中で楽な姿勢で寛ぐのだ。眠たくなってしまったのなら、それはそれで仕方ないではないか。
どうしても気になるなら、後日改めて観に行けば良い。そう割り切る。
ただ1回の上映に賭ける。そこ迄切羽詰まる映画はそうはない。
自身の経験では、3年前に、ジャック・リヴェット監督の『アウト・ワン』という映画を12時間かけて観た時位である。
この時は、リヴェット監督80歳記念として、飯田橋の「東京日仏学院」で特集上映がなされ、その目玉として『アウト・ワン』が上映された。
長らく、嘗て東大学長を勤められたこともある、映画評論家・蓮見重彦氏が、この映画を観た唯一の日本人といわれてきた。
8つのパートに分かれ、合間に休憩時間を挟みつつの上映だったが、昼の12時過ぎに始まり、終わったのは深夜12時過ぎ。
元ネタとされるバルザックの『十三人組物語』は既に読んでおり、アウトラインは判っているつもりでも、舞台を現代に置き換え、演劇グループ同士の抗争劇に変わっている。
英語字幕さえ無い。事前に配布されたプリントのあらずじ書きを幾度も反芻し、後は、映像の流れで、物語の推移を想像するだけ。そういう状況下ではあったが、異様な緊張感ゆえであろう。全く眠たくならなかった。
この時は、欧州系ばかり重なってしまったが、終映間近のものもあり、やむを得ない。
実は不覚にも『ベニスに死す』の、前半40分位、昼食後で、血液が胃に向かったせいか、見事に居眠りこけてしまった。
旧作なので、録画したDVDを持っている。翌日、それで補完した。
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『マーガレット―』の後、『ベニスに死す』まで小一時間あったので、「シネスイッチ銀座」のすぐそばの「木村屋總本店」へ寄る。
「木村屋」の代名詞は「あんぱん」、「あんぱん」といえば木村屋というほどの看板商品だが、実はそれ以上に気に入っているのが「ピーナッツ・コロネ」である。
平日昼は、幾ら老舗とはいえすいていて、白い上衣姿が凛々しい執事風の初老男性スタッフも混じっている。
9月にやはり「シネスイッチ銀座」へ来た時のこと、朝一番で「木村屋」を訪れた。
目指す「ピーナッツ・コロネ」が見つからない。店内をキョロキョロ探すと、奥に漸く発見する。
直立不動の執事氏に尋ねるまでもなかったが、2個、3個と手にすると、すかさずサッと籠をさし出してくれた。このタイミングが絶妙であった。
「こちらのピーナッツ・コロネは実に美味しい。ピーナッツ・バターの味の濃いところが堪りません。」
好きな物には、お世辞ではない自然な賛辞が出る。
今回は「ピーナッツ・コロネ」を中心に、「小倉」、「チーズクリーム」、「りんごクリーム」。それに惣菜パンを2つばかり。
惣菜パンは、その後、次の映画待ちの間に頂いてしまったが、他のパンは土産に持ち帰り、記念撮影。
お茶を求めて、東銀座方面へコンビニを探して歩く。
そろそろ昼食時。
サラリーマンやOLたちでごった返す表通りを避け、裏通りを縫うように歩き、「銀座テアトルシネマ」を目指す。
途中、京橋から移ってきた「メサージュ・ド・ローズ」を横目に見やりつつ劇場へ。
(アクセサリー屋さんみたいですが、「メサージュ・ド・ローズ」はチョコレート・ショップです。)
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「銀座テアトルシネマ」は昔、「銀座テアトル西友」といっていた。
クシシュトフ・キェシロフスキ監督の『デカローグ』に、5週連続で通ったのが懐かしい。
脇の出入口から入ると、両方が背の高い壁で囲まれ、さながら城壁かオブジェの如し。
『ベニスに死す』終映後、「白いばら」や、「煉瓦亭」脇を通り抜け、再び「シネスイッチ」へと戻る。
今日はこれまで。
閉店間際の金券ショップで、次の映画の前売券を調達する。
映画観賞は全うしたので、今度こそ遠慮なく、電車で居眠りつつ帰路につく。




