2時間ほど前のことである。
職場の机の上で、コーヒーをひっくり返してしまった。
わが職場は、コーヒーを淹れてきて、机で飲みながら仕事をしても誰にも文句を言われない。
問い合わせの電話に、調べ物をしようと、お行儀は悪いが、受話器を持ったまま少し離れた場所の綴り物を調べ、無事回答し終えてやれやれ。
と机を振り返ったら、そこは辺り一面コーヒーの海!
どうやらビヨ~ンと伸びた受話器のコードで、マグカップを引っ掛けてしまったようなのだ。
「うわっ、やっちまった。」
一瞬凍りつくが、こぼしてしまったものは仕方がない。
ペーパータオルに雑巾を手に、始末にかかる。
ペーパータオルの吸水容量を遥かに超えた、ひたひたのコーヒーが気持ち悪い。
今どき珍しいボールが底に埋まったマウスの内側も、キーボードも幸い無事で、あとはただ拭くだけさ。
そういえば、3月11日の震災の日にも、同じような経験をしたんだったなぁ…と思い出す。
あの時も、机でコーヒーを飲みながら仕事をしていた。
最初カタカタと揺れだした時、「1かな?」などと軽く考えていたら、揺れはますますひどくなり、マグカップのコーヒーが波打って、ついには外へ飛び出した。
何だかスローモーションのように、徐々にコーヒーが飛び出そうとする様を見て、「あぁぁ、来る、来る」と、さながら『たけしの本当は怖い家庭の医学』みたいな恐怖心を煽られたのである。
おまけに上から辞書が直撃。あわれ陶器のマグカップは真っ二つに割れ・・・となるのはTVや映画での話。飲み口が欠けただけだが、この先、コーヒーを飲む度に唇を切るのもいやなので、心の中で「お勤めご苦労さんでした」と合掌しつつ、退役して頂くこととした。
だから、揺れが収まった後、私が真っ先にしたことは、崩れ落ちたファイル類の整理でも、ましてや建物の被害状況の調査でもなく、飛び散ったコーヒーの始末なのであった。
前回は天災、今回は人災。
コーヒー浸しになった書類は、どうせ後で捨てる、チェック用の書類である。
セピア色に染まり、くたっとなった書類を見て、ふと思い出したのはフランス映画の『アメリ』。
古手紙を偽造すべく、新しい便箋に書き綴った手紙を何度も紅茶に浸し、手紙を待ちわびる老婦人に幸せをもたらすというもの。
そんなことを思い出しながら、コーヒーを拭く私は、結構能天気だなぁ・・・と思ってしまう。
“コーヒーの海”…今、この文章を書きながら思い出したのは、
ダ・カーポの『青春は舟』。
「…人生は海 青春は舟…」
こちらは、なかにし礼さんの作詞による、とても切ない娘心を歌った儚げな歌です。
…『青春アニメ全集』、懐かしい。