前回の続き。
思いがけないタクシーのおっちゃんの奮闘のお蔭で、随分余裕を持って宝塚観劇に臨めることとなった。今回は、芝居、ショー共に何の予習もしていない。
第一幕は芝居。
チネチッタが舞台の映画制作の話かと思いきや、イタリアの紳士物スーツ・テーラーの米国進出を巡る、職人達の物語であった。
その代表、サルヴァトーレ・フェリが主役(演:大空祐飛)。彼の米国進出をTVドキュメンタリーで取り上げることになるが、ナレーター役の女優が土壇場で降板し、急遽代役に抜擢されたのが、映画学校研修生、ミーナ・プッティ(演:野々すみ花)。
米国進出にあたり、低廉な価格にすべく品質を妥協しても良い、とする向きと、質を落とすなどどんでもない、という、頑固職人の葛藤あり、
全くの不慣れでトチってばかりいるミーナが、故郷の小さな村で仮面劇の一座の中で育ち、道化師を活き活きと演じる様を見て、サルヴァトーレが自らの貧困時代を思い出しての共感あり、
…と色々あって、最後はサルヴァトーレが初心に帰り、嘗て修行に精出したナポリへ戻ることになる。
映画学校を卒業し、女優になったミーナと再会し、「私も一緒に行きたい。あなたの傍に居るだけでいい。」と熱く訴えかけるミーナの言葉に、二人は愛を確かめ合い、旅立ってゆくというお話。
田舎娘丸出しだったミーナが、観劇客にスタジオの道を訊く趣向も楽しいが、女優として成長した後も、ドテッと前からまともに転び、これが実際の地面だったら、膝小僧をすりむくか、ストッキングが伝線して、さぞ痛いだろうな…と心配になった。
30分の幕間、先ほど買ってきた『ツマガリ』の菓子に漸くありつく。
嘗て、星組・男役トップスターとしてその名を馳せた「紫苑ゆう」さんという方が、ここのシュークリームが好きだと仰ったところ、ファンからの差し入れが絶えなかったそうな。
その話を聞いて以来、私も真似して、この店ではシュークリームばかり食べている。
「シュー・ア・ラ・クレーム」×2、
「さざれ石シュー」という名のパリッとした皮の長細いシュークリーム(小豆粒が生クリームの上にぐるりと配され、これが「さざれ石」なのですね)、
それと、名前は忘れたが、洋酒の効いた、ひたひたの、早い話が「サバラン」みたいなケーキ。
劇場ロビーから外に出て、武庫川に面したテラス席にて、少し遅めの昼食となった。
或る年の正月2日のこと、粉雪が舞い散ろうかという寒空の下、開演前の空き時間にここの奥の席に陣取り、トランクを開けて荷物を整理していたら、ロマンスグレーの紳士に声を掛けられたことがある。
「あの、失礼ですが、出演者の方ですか?」
…いえいえ、宝塚は女性出演者だけの劇団なのでございますよ。ほんの一時、確かに「男子部」もあるにはありましたが…
そんな突っ込みも出来ぬほど真面目なご質問に
「いいえ、観客の一人ですよ。」
そうお答えした。
役者に間違われたのは、これが唯一の経験である。
格子柄模様のトランクが、マジシャンぽかったのだろうか?
続きはまた明日。


