こんにちは、池上校講師の木村美那子です。
先日、上野の駅前にある東京文化会館へ(公社)日本バレエ協会公演「ドン・キホーテ全幕」を観に行ってきました。
こちらは都民芸術フェスティバルの企画のひとつで、開催期間中はバレエだけでなく、現代舞踊やオペラ、音楽会なども多く開催されます。
「ドン・キホーテ」のストーリーについては、以前のブログでもお話しましたが、ミンクスの音楽とあいまってスペインのエネルギッシュで明るい雰囲気が伝わってきました。
コロナ禍の前までは木村も出演していたこの都民芸術フェスティバルのバレエ公演は、特定のバレエ団のダンサーではなく、オーディションによって選抜された公演用のカンパニーなので、場合によってはリハーサル初日には「はじめまして」の状態で、お互いに名前を知らない…ということも。
それでも、本番ではまるで以前からの仲間であったかのような雰囲気になるのは、振り付け者、出演者、スタッフ、などなど、舞台に関わる全員がひとつの作品、ひとつの舞台をより良く育て、お客さまにお届けしたい!という気持ちのなせるわざでしょう。
公演は劇場の入り口を入るところから始まっています。
ロビーでの語らいや、受付スタッフの方たちのおもてなし、客席のざわめき、プログラムを読む時間…日本では上演前や休憩中の過ごし方があまり上手でないと海外の方から言われてきましたが、特に何をする必要はなく、その「場」や「時空間」を楽しめれば良いのではないかと思います。
そして開演!
客席の明かり(客電)が暗くなり、オーケストラの音合わせがあり、指揮者が登場すると、劇場中が緊張感と期待感で満たされていきます。
幕が開くとそこはスペインの街角。若者たちはおしゃべりをし、子どもたちはいたずらをし、ご老人たちは日向ぼっこ…もちろん舞台の上は物語の世界(虚構)ではありますが、舞台セットと、照明と、音楽と出演者のパフォーマンスによって「ある世界」が立ち現れてくるのです。
様々な技術が向上し、また個人でも扱えるものになってはきましたが、そして人々も「手軽さ」や「手の届く範囲」である程度満足したり、納得したりもしていますが、やはり「総合芸術」としてのバレエの舞台に演者としても観客としても参加することは「価値観の向上」や「感性の豊かさ・深さ」のレベルを上げることに繋がります。
価値観や感性への影響は、範囲を拡げればことの重大さがご理解いただけるかと思います。
例えば、いくらバーチャル世界の技術が発達し、手触りや匂いを体験出来るようになったとしても、本来は「やはり、何かが違う…」と感じられるものですが、そのバーチャルの狭められた体験しかしたことがなければ、それが価値観の全てになってしまいます。
またマイナス面の最たるものとしては、家庭が愛や安心感ではなく、暴力や冷たさで満ちた環境にあり、もし子どもたちがそのような環境て育ったら…子どもたちは家庭や家族にあたたかさを感じることはなく、そのまま大人になってしまったらその感性、その価値観、そしてその結果として起きることなど、憂慮すべき状態に陥るかもしれません。
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、「世界の果てまでバレエ(芸術)を届ける」ことは、バレエをひろめるだけでなく、子どもたちの未来、世界の未来が少しでも豊かになるためのお手伝いになると考えていますし、そのためにも「総合芸術」である「時空間」の充実度は妥協することなく高めていければと考えております。(木村)