本日は書籍紹介をいたします。

今回取り上げるのはこちら、

奥山俊宏・村山治『バブル経済事件の深層』岩波新書、2019年

つい先日、日経平均株価がバブル以来の最高値を更新したということで、経済ニュースが湧き立っていましたが、30年経ってなお引き合いに出されるくらいに、昭和末から平成初期にかけてのバブル経済は日本に大きな爪痕を残したということなのでしょう。

そんなバブル経済について、いくつかの大きな事件をピックアップして検証したのが本書です。

バブルについて考察する場合、さまざまなアプローチが考えられると思いますが、本書はたとえばマクロ経済的な観点からバブル期を数量的に分析するというものではなく、当事者へのインタビューなどを交えながらドキュメンタリー的タッチで出来事を描き出すというものになっています。

具体的には、尾上縫さんへの日本興業銀行による乱脈融資問題、いわゆる二信組破綻事件の中心にいた高橋治則さんと日本長期信用銀行との関わり、大和銀行ニューヨーク支店事件、そして日本債券信用銀行の粉飾決算事件という四つの事件が取り扱われています。

私はバブル〜バブル崩壊当時は小学生から中学生という時期でしたので、事件や個人名など聞き覚えはあるものの、実態としては一から勉強し直したという感じです。

尾上縫さんや高橋治則さんは、当時かなりの悪者のように報道されていた印象がありますが、本書を読みますと、もちろん彼らも銀行の放漫な融資を引き出し、自らを律していたとはとても言えないのですが、銀行側もそれを利用して自分たちの利益を図ろうとして破綻を引き起こしたのであり、バブル期というのは社会そのものが病んでいたという印象を強くします。

それを監督するはずの行政もまた指導力不足で、問題の先送りに加担していたことは、大和銀行事件や日債銀事件について検証されます。

総括的に記された部分を少し引用します。

「長銀と日債銀の両事件で検察が問題視した損失処理の先送りは90年代、大蔵省銀行局によって容認されていた。いわば大蔵省公認の会計慣行だった。その結果、損失の規模、すなわち、バブル崩壊のマグニチュードの大きさがよく分からなくなった。そのため、損失の規模を小さく楽観視し過ぎた。金融破綻が起こったときのセーフティーネット（安全網）の整備が遅れ、それがさらに先送りを招いた。毎年のように「不良債権処理は峠を越えた」と発表され、いつしか、だれも銀行の決算を信じなくなった。資金の流れに目詰まりができ、貸しはがしが横行し、ますます景気を悪化させた。つまり、損失処理の先送りこそが、不良債権の実態を覆い隠し、バブルの処理を長引かせ、長期低迷を招く一因となった。

　長銀も日債銀も破綻直前、それなりに健全そうに見える「純資産プラス」の決算を公表した。しかし、実態は債務超過だった。現に、破綻処理の過程で、3兆円を超える公的資金が両行にそれぞれ「贈与」された。国民の負担で拠出されたその6兆円余は、損失の穴埋めに消え、永久に戻ってこない。世の中の一般の人々の目からは見えない巨額の損失が両行の決算に隠されていたことは動かしがたい事実だ」

（286-287頁）

バブルの時代というのは、よく言われるように誰もが熱に浮かされた状態だったことが、本書を読むとよくわかりますし、それらを適切に規制する制度も不在だったわけです。

現在は企業活動のグローバル化も進み、コンプライアンスという言葉も一般レベルにまで浸透して、日本だけの特殊な経済慣行に甘えて銀行レベルで乱脈な融資や経営が横行する可能性はかなり低くなっている、と信じたいところではありますが、人が関わることに絶対はないのかもしれませんね。

バブル経済と崩壊については、何かにつけて語られるわりにきちんとした検証報告が不在であることを筆者たちは指摘しますが、株価ばかりが加熱する昨今、あの時代への反省はますます重要になっていると感じる読書でした。

書籍紹介：『バブル経済事件の深層』