改正の3本柱② 手形払いが完全禁止に!

取適法のもう1つの大きな変更点が、手形払いの全面禁止です。

これは多くの企業の資金繰りに直接影響する、極めて実務的な改正です。

 

■ これまでの規制と改正後の違い

 

【従来の下請法】

  • サイト(支払期日)が60日を超える手形が問題視
  • 2024年11月以降、60日超の手形は行政指導の対象
  • 手形そのものは禁止されていなかった

【改正後の取適法】

  • 手形による代金支払いが全面禁止
  • サイトの長短に関わらず、手形払い自体が「支払遅延」に該当
  • 違反すれば勧告・企業名公表のリスク

■ 手形だけじゃない!電子記録債権も要注意

「じゃあ手形の代わりに電子記録債権(でんさい)を使えばいい」と考えた方、それも危険です。

取適法では、「支払期日までに代金相当額の満額を得ることが困難な支払手段」も禁止されています。

 

【禁止される支払手段の例】

  1. 電子記録債権

    • 支払期日が60日を超える場合
    • 割引料や手数料が差し引かれる場合
    • → 受託者が満額を期日内に受け取れないため違反
  2. ファクタリング

    • 手数料を受託者が負担する形式
    • 買取金額が満額に満たない場合
    • → 実質的な減額に該当するため違反
  3. 一括決済方式(一括ファクタリング等)

    • 早期現金化の手数料を受託者負担にする
    • → 同様に違反の可能性

■ 何が許されるのか?

原則は明確です:納品・役務提供完了日から60日以内に、満額を現金で支払う

 

具体的に許される支払方法:

✅ 銀行振込(60日以内、手数料は委託者負担)
✅ 現金払い
✅ 電子記録債権・ファクタリング(60日以内、手数料なし、または委託者負担)

 

■ 振込手数料の負担も注意点

実は、振込手数料を受託者に負担させることも「減額」に該当する可能性が高まっています。

企業取引研究会の報告書では、合意の有無に関わらず振込手数料を受託者負担にすることは問題とされており、今後の運用基準で明示される見込みです。

 

■ 企業が直面する課題と対応

【課題1:資金繰りへの影響】

  • 手形払いで資金繰りを調整していた企業は、現金払いへの移行で資金需要が増加
  • 対策:金融機関との資金調達体制の見直し、運転資金の確保

【課題2:システム改修】

  • 経理システムの支払条件設定変更
  • 取引先マスタの見直し
  • 対策:2026年1月までにシステム改修を完了

【課題3:取引先との調整】

  • 長年の取引慣行の変更を説明
  • 場合によっては支払スケジュールの再交渉
  • 対策:早期に取引先へ改正内容を通知、丁寧な説明

■ 経理部門は今すぐ動くべき

この改正は経理・財務部門に最も影響します:

  1. 現在の手形払い取引を全てリストアップ
  2. 支払条件を現金払いに変更する計画策定
  3. 資金繰り表の見直しと金融機関への相談
  4. 社内決裁・承認フローの整備

施行まで時間がありません。今すぐ準備を始めましょう。

次回は、「対象範囲の拡大」について解説します。「うちは関係ない」と思っている企業こそ、必読です。