能登半島を震源とする地震が起きて、早やひと月が経とうとしています。能登に事業所を持つ企業の方たちは、これから事業再建に向けた活動を行わなくてはなりません。これは、口では言い表しようのない努力が必要なのではないでしょうか。

 それに比べて、日ごろ「やれ、儲からない」だの、「資金繰りが大変」だなどと、“滑った”の“転んだ”のと言っている私たちは、能登の方たちから見ると随分と恵まれた環境にいることを忘れてはならないと思います。

 

 今回は、社長として即答できなければならない数字の一つを明確にしていこうと思います。それは、「いくら“赤字”を出したら『債務超過』に陥るか」という数字です。即答できますか?

 

 『債務超過』とは、総資産の額より負債の額が多くなってしまうことです。

 

 

 中には「借金をし過ぎると『債務超過』になる」と勘違いをしていらっしゃる人もおいでますが、借金をしても借りたお金を資産として持っていれば、決して『債務超過』になることはありません。

 

 次に“赤字”です。以前のブログで“赤字”には2種類の“赤字”があることを書きました。一つ目は、PL(損益計算書)の“赤字”で、これは、費用>収益の状況です。一般的に、“赤字”と言えばこれを指します。

 

 もう一つは、BS(貸借対照表)の“赤字”で、負債>資産の状況です。上図で言う『債務超過』となっている状況を指します。

 

 仮に、PLの“赤字”を数年間出し続けたとしても、BSの“赤字”に達するまでは、企業として何とかなる状態「決してヤバいわけではない」と言えます。

 しかし、“赤字”経営を続けた結果、BSの“赤字”(債務超過)となってしまえば、状況が激変します。まず金融機関の態度が一変すると考えた方が良いでしょう。

 

 BSの“赤字”である『債務超過』を簡単に言うと、会社の全ての資産を売り払ったとしても負債を完済できない状態です。こうなると、金融機関はもう融資には応じてはくれなくなるでしょう。

 長期資金は「期限の利益」がありますから、すぐに返せとはなりませんが、運転資金に直結する短期資金(当座貸越・手形借入)は回収されてしまうと考えた方が良いでしょう。

 ただし、『債務超過』となっても、直ちに破産してしまうわけではありません。

 

 さて、『債務超過』に陥り、金融機関が態度を一変させるとどうなるかをご存じでしょうか。極端な例かも知れませんが、社員に対して『売上を伸ばすな!頑張るな!』と言わなくてはならなくなるということです。

 

 売上が伸びると、仕入と売上債権の回収までのタイムラグを原因とする正常運転資金の必要額が拡大します。通常はこの資金を金融機関からの短期融資で賄うのですが、『債務超過』の状態では、この資金融資は叶わないことになります。無理やり売上を伸ばそうとすると、勢い資金ショートを起こしてしまいます。

下手をすれば、倒産ということになりかねません。このような状態を「ヤバい」というのです。

 

 経営者は時にはPLの“赤字”は出しても仕方が無いと思います。しかし、BSの“赤字”に達するまでの数字を絶えず意識しておかなければなりません。

『いくら“赤字”を出したらヤバくなるか』を知っていなくてはならないということなのです。

 

 このBSの“赤字”に無頓着な経営者は、いつの日にか『もう、売上を伸ばすな!』なんて叫ぶはめになるかもしれません。

 『債務超過』となる“赤字”の額、しっかりと認識して、決して一線を越えない努力をしなくてはならないのです。