米国ではインフレ圧力が脅威となっているみたいです。物価の上昇なんて当面わが国では考えられない現象ですね。わが国で現在のコロナ禍で脅威となっているのは、サプライチェーン(供給連鎖)の寸断から来る「原材料不足」の方です。

 

 『織物を織りたくても、糸が入荷しないんですよ』という声が織物業者さんから聞こえてきたと思っていたら、次は『生地が入ってこないんですよ』と染屋さんからこのような声が聞こえてきました。さらに、半導体不足から自動車が生産できないなど、生産したいのに原材料の供給が滞っているのが現在の状況なのです。
 

 米国ではこれがもっと酷い状態でして、個人消費が相当過熱しているとのこと。わが国では、コロナ禍での様々な個人給付がありましたが、その7割程度が貯蓄に回されましたが、米国では失業給付を始め個人給付が消費に回されているらしいのです。
 

 コロナ禍で外食や旅行への消費活動が制限を受ける中、米国人はモノを買いまくったのです。消費者の多くはスマホを使って瞬時に注文を行えます。ある意味バーチャルな世界観です。しかし、注文を受けた方はリアルな現実世界に居て、発注者へモノを供給するという義務を負います。

 米国の港には中国からのコンテナ船が群れを成し、さらにトラックの運転手不足がこれに追い打ちを掛ける状態となっています。モノの供給がすんなりと行かない状態が続いて、モノ不足→モノの価格が上昇という現象が起きているわけです。

 日本では、モノ不足で生産が滞り、米国ではモノ不足&人手不足で供給が滞り物価が上昇するという現象が起きています。

 

 過去様々な災害でサプライチェーンが寸断途絶され、製造現場に多大な影響が出ました。

このような状況をニュースなどで見聞きするたびに、ジャストインタイム方式などの「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」供給するための生産計画

も効率性の確保の観点からは必要な施策だと思うのですが、昭和40年に経営の神様である松下幸之助翁の提唱した「ダム式経営」の方式が、これからのリスク性社会により対応しているのではないかと思えるようになってきました。

 

「ダム式経営」とは、最初から一定の余裕をもった経営のあり方で、あたかもダムに入れた水を必要に応じて徐々に流していくように対応する方式のことです。たとえば、需要に変動があった場合、品物が足りなくなったり、余り過ぎたりしないように、余裕設備を動かしたり、休ませたりして、安定的な経営を進めるというものです。それは設備だけではなく、資金、人材、在庫についても同様に考える方式を差します。

 松下翁の言葉を引用すると、

『私の言うダム経営というものは、最初から一割は余分に設備を常にしておかないといかん、それは社会的事変に対するところの企業者の責任であるという自覚であります。その自覚において、普通の需要を正確に設定いたしまして、変事に備えるために一割の設備増強をやっておく。 これは意識の上にある。 これが私はダム経営やと思うんですでありますから、少々の変動があったり、需要の喚起がありましても、そのために品物が足りなくなったり、値段が上がったりすることはありません。

 

 そのときは余分の設備を動かせばいいんでありまして、あたかもダムに入れた水を必要に応じて流すようなものでございます。 そういう意味の、設備のダム設置、いいかえますと設備の増強です。 したがって採算はどこにおくかといいますと、採算は、常に90パーセントの生産をして引き合うところにおいてやっていく。 はたして日本の経営はそういうようにやっているかどうかですが、日本の今日までの経営を見てみますと、需要を過大に評価して、そうしてそれに対して設備を拡張していこう。 だから、したものは全部動かさないといかん、全部動かさなければソロパンに合わないと、こういう状態になっておるんではないかと思います。これはダム経営でも何でもありません。』

 

 このコロナ禍で、これまで経営の合理化と称してやって来たことを、一度立ち止まって見直してみることも必要ではないかと思ったわけです。