突然ですが、下の図表をご存じでしょうか。

 

 損益分岐点図表と言います。

 損失と利益の分かれ目となる売上高を示す図表で、ある期間の損益分岐点が仮に500万円という場合、売上高がそれを上回れば利益が出るが、もし下回ったとしたら損失が生じるということを表しているのです。

 

 しかし、この図表には一つの大前提がありまして、それは『販売単価が一定であること』というものです。もし、この前提が崩れたとしたら、たとえ売上高が損益分岐点を上回ったとしても、利益が出ないことだってありますよ、というのが今回のお話です。

 

 コロナ禍ということで、なかなか売り上げが伸びない中、社長からこのような激が飛びました。

『弊社の月当たりの損益分岐点売上高は500万円である。みんなで何とかしてこの目標を達成してほしい!』

 

 そこで、社員Aは考えました。「現在販売している商品の価格は1個5万円である。それを20%引きの4万円で提供すれば、きっとよりたくさんのお客さんが買ってくれるはずだ。今、目標売上高500万円であれば、100個の売上が必要となるが、仮に値下して、もし150個(50%増)売れれば、売上高は600万円となり、きっと社長は喜んでくれるはず。」

 

 これって、「危険な値引き」と言われる行為です。

 

 検証してみましょう。ただし、この商品の原価は3万円だったと想定して説明します。

 

 社員Aの考える通り、この商品を値下げしたことが好感され、お客さんが月に150人買ってくれたとします。さて、この場合どのような結果となるでしょうか。

 

 目標とする月額売上高は500万円以上であり、この場合粗利は200万円以上となる計算です。社員Aの戦略では、月額売上高は600万円と目標値を超えるのですが、粗利は150万円と反対に下がってしまいます。

 このケースでは、目標個数の2倍である200個、それ以上を売らなくては必要とする粗利を稼げないという事になります。思い付きだけの20%の値下げで、実際には100%を超える販売数の増加が必要となるケースなのです。

 

 ここで重要なのは、会社経営に必要なのは、単に売上高ではなく粗利であることを忘れてはならないという事です。

 

しかし、「売上高重視」で目標売上高○○円とだけ設定する計画が多いというもの事実です。そして、「売上至上主義」よろしく、社員に単に売上高を上げろとだけ指示を出す。このような誤った指示が、ともすると社員に誤った行動を起こさせる原因になってしまうかも知れません。

 

 企業経営の格言にこのようなものがありますのでご紹介差し上げます。

 単に売上高から議論をスタートしてしまうと、勢いおかしな方向に向かってしまうこともあり得るということです。売上高よりも『商品1個の儲けの積み重ね』の方が大事であるという事なのです。

 

 コロナ禍で、売上高の減少に頭を痛めている事業者さんも多いことだろうと思います。売上高の回復を狙うことも大切なのだと思いますが、もう一歩踏み込んで、商品一つ一つの粗利、その粗利の積み重ねというものにも細心の注意を払っていただいて、この危機を乗り越えてもらいたいと、真に思っております。