「あなたに毎年100万円を永久に受取れる権利をお譲りしましょう」という人が現れたとします。幾らであれば、その権利を譲ってもらうことを承諾しますか?

 

 今年話題になったニュースのひとつに「スルガ銀行不正融資問題」というのがありましたね。スルガ銀行が、シェアハウスやアパートなどの投資用不動産への資金を必要とするオーナーに対して、不適切な融資を行っていた問題です。

 全国の金融機関が投資用不動産に対する融資を拡大している最中に明るみに出た問題で、全国的にアパマン・ローンの実行に水を差す要因となりました。

 

 ところで、皆さんは「永久年金」という言葉をお聞きになったことはありますか、

⇒永久年金とは、ある一定額のキャッシュ・インが半永久的に継続するキャッシュ・フローのことを言います。

 

 最初に書いたような、~ 毎年100万円を毎年受取れる権利 ~のようなイメージですね。

 アパートやマンション経営をやりたいと考える人たちは、毎月入ってくる家賃をあたかもこの「永久年金」というイメージにすり替えているのでしょうね。

 

 最初の質問を言い換えて見ましょうか。

「毎年キャッシュ・フローで100万円を実現できる中古アパートを幾らだったら購入しますか?(築年数は考慮しないものとします)」

 

 妥当な金額を考えるまでに、少し頭の体操をしてみましょう。

今、世の中の金利が10%だとします。1年後に100万円の満期金を受け取るためには、今現在幾らの元手(元金)が必要でしょうか。

さらに、2年後に100万円の満期金を受け取るためには、今現在幾らの元手(元金)が必要でしょうか、さらに、3年後に........(以下の表を参照)

 

この表の数値の読み方は、1年後の100万円の現在価値は909,091円(909,091は10%の金利下では1年後に100万円になる)、2年後の100万円の現在価値は826,446円・・・・・10年後の100万円の現在価値は385,543円という風に読み取ってください。

 この時、それぞれの金額のことを「割引現在価値」と言います。100万円はあくまでも名目価値ですので、何らかの割引率(今の場合は金利10%)で割引計算して実質価値を求めたものです。

 さていかがでしょうか、もし世の中の金利が10%であったとしたら、毎年100万円を20年間連続で毎年もらうために今必要な元金は上の表の合計額である8,513,564円あればよいことになります。言い換えれば、将来2,000万円の収益を得るための原価は8,513,564円ということです。

 

 さて、話をアパート経営に戻して考えて見ましょう。

 上の計算では割引率を想定金利10%としました。この割引率をどの程度として計算を行うかで、計算結果は大きく変化します。どのような割引率を使うかについては、これが正解ですというものはなく、個々人の合理的な考え方に基づいて考えれば良いものとされます。

 例えば、長期金利+成長率+リスクプレミアムというものを積み上げて割引率としてもよいわけです。

 

 今後の長期金利を平均で2.0%、経済成長率も同じく2.0%、アパート業のリスクプレミアム(危険割合)を6.0%※としてこれもまた合計10%の割引率をこの設問での割引率としてみましょう。

(※危険割合に応じてプレミアムも変化します。信用度の低い人にお金を貸す場合に高金利とするのと同じです。)

 

 

 上のグラフをご覧ください。破線が毎年のキャッシュ・フローの現在価値の推移です。未来へ行くほど0円へと収束していきます。

 さらに、実線が時の経過に合わせてn年後の割引現在価値を累積させていったものです。最終的には1,000万円へと収束します。

 結論として、この中古物件はよほど高めに見積もっても1,000万円以上の価値は無いことになります。

 『毎年100万円のキャッシュ・フロー×経営年数』で買値を考えてはいけないのです。

 

 

という計算式で求めることができます。

 

 永久年金の考え方は企業財務(ファイナンス)にとって重要な考え方のひとつとされています。その要素としては、

 

 ・将来のお金は時の経過により縮小して行く

 ・割引率は使用者によってまちまちであり、主観的な要素である

 

スルガ銀行の事件のように、将来年金額が減少して行く日本で、年金の足しにと中古の不動産を買い求める人たちが増加しています。しかし、ファイナンスについての知識が無いと、お得なように見える物件でも結局はお高い買い物になってしまうかもしれませんよ。

 

 私なりに結論を言えば、世の中に「永久機関」というものが存在しないように、永久に同じ価値を提供し続けてくれると言う「永久年金」というイメージも幻想に過ぎないのかもしれません。