前回はオフ・バランス資産(バランスシートに載らない資産)を重視した経営の重要性について書きました。
この考え方は、今から10年前くらいから経産省の肝入りで進められている中小企業の新たな経営スタイルである「知的資産経営」に織り込まれています。
今回はこの「知的資産経営」について少し書いてみたいと思います。
「知的資産経営」を語る上で、時折り引用される名言がありますのでご紹介しておきます。
『財を残すは下、業を残すは中、人を残すは上』というものです。これは、明治時代の医師であり政治家であった後藤新平の言葉として言い伝えられているものです。
また、2009年プロ野球監督を辞められる野村克也監督が最後のインタビューでこう語りました。
『人間何を残すか。人を残すのが一番。少しは野球界に貢献できたかな....。』
人とは唯一お客さんに価値を提供するものを作り上げることができる“資産”である、ということでしよう。名君、人を残す....。何となくわかるような気がします。
前置きはここまでとして、「知的資産経営」の話を続けましょう。
「知的資産経営マニュアル」によれば、知的資産をこう説明しています。
~≪以下引用≫
知的資産とは「従来のバランスシート上に記載されている資産以外の無形の資産であり、企業における競争力の源泉である、人材、技術、技能、知的財産(特許・ブランド等)、組織力、経営理念、顧客とのネットワーク等、財務諸表には表われてこない目に見えにくい経営資源の総称」を指す。
≪引用終り≫~
知的資産を三つに分類すると、「人的資産」「構造資産」「関係資産」に分けることができます。
さらに、中小企業の場合、この三つの資産の構成割合は、人的資産=80、構造資産=10、関係資産=10なんだそうです。人が利益の中心となっている形態が中小企業の実態だと言えます。
つまり、経験や技、スキルを持った人が職場を離れる(退職する)と、その企業の知的資産が激減してしまい、収益を上げられなくなってしまうという事態に追い込まれる。
こういったことを防ぐ手段が、資産の大半(80)を占める人的資産を構造資産化して行くことだと言われています。
まず、自社の技やノウハウ、過去の経験など全て棚卸ししてみてください。きっと、自社の強みが見えてくるはずです。それと同時に、様々な気づき(発掘)も有るかもしれません。自社の強みの見える化を行うのです。
そして、それを基に、「営業・経営マニュアル」「教育システム」「人的資産の評価・報償規程」「営業秘密」「データベース構築」などの作成に落とし込んでいきます。
さらにこれを、世代を超えて企業を存続させる力となる「構造資産」へと変化・成長させていくのです。知恵と工夫の蓄積だと言えます。
こうして「人的資産」から作られた「構造資産」が、その後自社に新たな「関係資産」の構築をもたらしてくれるかもしれません。それに、その新たに構築された「関係資産」が、将来の「人的資産」の確保・育成に貢献してくれるようになればしめたものです。知的資産経営の成功スパイラルの出来上がりです。
知的資産の三つの分類で、自社のそれぞれの資産の構成要素を変化(人的資産への比率を減少)させることができれば、その会社は永遠に存続する可能性が生まれます(100年企業)。
知的資産という目には見えない資産を目に見える化して体系づけて行き、将来を見据えた経営を行うことが知的資産経営の目的なのです。
最後に、「財を残すは下、業を残すは中、人を残すは上」には、以下のような続きがあることも書き添えておきます。
『されど、財なさずんば事業保ち難く、事業なくんば人育ち難し※』
※良い人材を残すには、良い事業が必要であり、事業を継続するには金が要るのですよ。