<大相撲夏場所>◇千秋楽◇26日◇東京・両国国技館


小結大の里(23=二所ノ関)が、初土俵から所要7場所の史上最速優勝、さらには67年ぶりの新三役優勝を飾った。単独トップで臨んだ1差の関脇阿炎戦に勝利。負ければ阿炎らとの優勝決定戦に回る可能性があったが、12勝3敗で初優勝を手にした。初土俵から所要7場所での優勝は、従来の最速優勝だった、先場所の尊富士の同10場所を上回った。幕下付け出しデビューとしても、同じ石川県出身の元横綱輪島の同15場所を大幅に更新。新三役での優勝は、57年5月場所を同じく新小結で制した、安念山(後の元関脇羽黒山)以来、67年ぶり2人目となった。

前日14日目に快勝した前頭湘南乃海戦後から、言葉にこそ出さなかったが緊張感を漂わせていた。前日はトップに並んでいた、大関琴桜が結びの一番で敗れて単独トップに浮上。その取組を見る前に支度部屋を後にしていたが、トップは確定している状態。それでも「(優勝は)ないものと思っている」と、不自然なほど無欲を強調していた。

同じく優勝争いしていた先場所12日目に3敗目を喫し、トップの尊富士に2差をつけられた際も、同じコメントを発していた。ただ、その時はどこか吹っ切れた様子で、朝稽古後などは報道陣と談笑もしていた。それが今場所は特に終盤戦に入り、同じコメントを繰り返す受け答えが目立った。前日の取組後も、報道陣の質問にかみ合っていなくても「気にしていない」や「15日間戦い抜くだけ」などの回答に終始。この日の朝稽古後も「何も気にしていない」や「取り切るだけ」と繰り返すばかりだった。

ただ、土俵に上がれば、相手を圧倒する取組が目立った。特に11日目に大関豊昇龍に1回転させられる下手投げで敗れてからは、目が覚めたように快勝続きだった。師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)は、自身の経験を踏まえ「初優勝というのは、ついてくる感じ」と話した。師匠は初土俵から89場所という4番目のスロー初優勝で、大の里史上最速優勝とは対照的。ただ初優勝への“生みの苦しみ”は師匠も知っている。だからこそ「今は経験することが大事」と、あえて細かな助言はしなかった。自分で考え、苦しみを乗り越えた先に優勝を手にし、さらなる成長を期待する。

故郷の石川県が元日の能登半島地震で甚大な被害に遭い、心を痛めた。新入幕の初場所千秋楽からほどなくの2月6日、当時前頭の遠藤、十両輝とともに、被災地を慰問した。内灘町の避難所に身を寄せていた、祖父の坪内勇さんには直接、支援物資を手渡した。そして「石川に明るい話題を届けたい」と、力強く誓った。

それから3カ月余り。心身ともに成長した大の里が、石川県出身力士としては99年名古屋場所を制した出島以来、25年ぶりの優勝を果たした。JR金沢駅には関取衆のパネル写真が飾られるなど、相撲どころの石川県を盛り上げるのに、この上ない快挙となった。

来場所も優勝、またはそれに準ずる成績となれば、大関昇進のムードが高まるのは必至といえる。「三役で3場所33勝」という、従来の大関昇進目安すらも超越した規格外の活躍だ。新入幕から全て優勝争いの末の3場所目の初優勝。今場所からまげを結ったばかりで、まだ大銀杏(おおいちょう)を結うことはできない。先場所の尊富士に続く“ちょんまげ優勝”は、世代交代を強烈に印象づけた。

日刊スポーツから(引用)
2024/5/26