「命があったことが奇跡」。兵庫県宝塚市立中学校で2019年6月、2年生の女子生徒=当時(13)=が、部活動中に、顧問で20代=当時=の男性教員から指導を受けた後、校舎から落ちて重傷を負った問題で、女子生徒の母親が初めて神戸新聞社の取材に応じた。謝罪もなく他校に異動した元顧問。再発防止策も示されず、停職1カ月の処分にも納得できない。「このまま終わったことにされる」。市教育委員会への不信感を吐露した。(大盛周平)

 学校生活に真摯(しんし)に取り組んでいた女子生徒。ただ、部活については「先生に怒られたくない」と漏らすことがあった。昨年6月8日午後、部活中に元顧問から部屋を出て1人で練習するように言われ、その後、自ら転落した。

 女子生徒は腹部内の出血でショック状態となった。骨盤、腰椎、両かかと、左腕は折れ、左のすね部分は開放骨折だった。骨折は計6カ所。輸血をしながらの処置が翌朝まで続いた。

 命は取り留めたものの、何度も体にメスを入れた。入院中、床ずれによる感染症にかかり、体に入れていたプレートをもう一度取り出したこともあった。退院は昨年10月。手術は今年6月下旬までに計8回を数え、今も松葉づえを離せない。「娘が消えることのない傷を目にするたび、事故を思い出すと思うとつらい」

 母親自身も、看病と仕事、他のきょうだい3人の世話に追われ「何度も消えてなくなりたいと思った」。女子生徒が前を向き、きょうだいが支える姿に救われてきた。

 母親は「同じ目にあう子どもがいなくなるように」と詳細調査を依頼。第三者委員会は今年3月、報告書をまとめた。しかし、調査結果は、同委員らの勧めもあり、母親の求めで非公表となった。

 同じ時期、市教委は母親に、謝罪の場として元顧問との面談を3月中に設定できないかと提示してきた。それまで元顧問に関して具体的な説明はなく、唐突に感じた母親は断った。4月、元顧問は別の学校に。「再び教壇に立たせる前に、するべきことはしたのか」

 その後、謝罪や詳細な説明の機会は設けられないまま、6月、県教育委員会が元顧問に停職1カ月の処分を発表。「命に関わる問題を起こしたのに」。強い違和感を覚えた。

 部活動は常に張り詰めた状態だったという。他の生徒から「自分が(女子生徒のように)なっていたかもしれない」との声も聞いた。

 今年1月に学校に戻ったが、登校できない日も少なくない。学校側は送迎や学業などに気を配ってくれるが、市教委に対しては「現場に任せきり」とも映る。 母親は「報告書を非公表にしたことを、都合よく利用されていると感じる。市教委は、人を育てるということの重みをどう考えているのか」と憤る。今後、真摯な謝罪や再発防止策の徹底などを求めていく。

神戸新聞から(引用)
2020/8/9