新型コロナウイルスの感染急拡大に直面する大阪府が31日、国内有数の繁華街・ミナミ(大阪市中央区)の中心部で、8月6日から酒を提供する飲食店などへの休業や営業時間短縮の要請に踏み切ることを決めた。エリアの限定には、経済活動への影響を最小限に抑えたいとの思惑があるが、根拠のはっきりしない区域の線引きに戸惑いの声も漏れる。感染収束の突破口は開けるのか。

 「繁華街の中心部で、若者を中心に(感染者が)増えている。ピンポイントで止めていく」。大阪府の吉村洋文知事は31日の対策本部会議後、そう語った。

 エリア限定の要請は、大阪市の松井一郎市長が吉村氏に提案した。両氏とも経済への打撃が大きい休業要請には慎重だったが、府内の感染者数は右肩上がりで、7月29日に221人と、1日当たりで200人を初めて突破し、方針転換を迫られることになった。

 ミナミを選んだのは、感染者数の増加が著しいためだ。府によると、感染者の滞在地域別内訳では、〈1〉6月14日~27日〈2〉6月28日~7月11日〈3〉7月12日~25日の三つの期間で、ミナミがそれぞれ16人、26人、148人に急増。同じ繁華街のキタ(大阪市北区)は1人、10人、31人で、ミナミの人数が突出している。

 対象範囲は大阪市が絞り込み、長堀通、堺筋、千日前通、御堂筋で囲まれた地域とした。府の対策本部会議で、市の担当者は「感染者などへの聞き取りで、このエリアに関係する人が多い」と説明。一方で「はっきりした数字があるわけではない」とも述べた。

 休業要請に踏み切る根拠も揺らいでいる。

 大阪府の独自基準「大阪モデル」では、店舗などへの休業要請は、「黄信号」の「ステージ1」から、より状況が深刻な「ステージ2」に移行した時に行うと定めていた。

 「ステージ2」への移行は、〈1〉重症者用の病床使用率が35%程度か、軽症・中等症者用の病床使用率が50%程度に達した〈2〉国や他の大都市と協議して、共同で休業要請などを実施――の二つのパターンを想定。

 31日の時点では重症者用の病床使用率は10・1%、軽症・中等症者用の病床使用率は25・7%で、いずれも〈1〉を満たしていないが、吉村氏が31日に政府に対し、全国の都市部で一斉に休業要請などの実施を提案したことなどを受けて、〈2〉の規定に当てはまると拡大解釈することにした。ステージ2への移行に関する詳細な規定は7月28日に設けたばかりだったが、わずか3日で事実上の見直しを迫られた形だ。

 吉村氏は「対策を取ってどうなるかは、僕も神様ではないのでわからない」「正解がない中で(対策を)進めている」と釈明しつつ、「放置すれば医療崩壊を招いてしまう。これがコロナの難しさだと思っている」と語った。

 要請対象エリアの店からは不満の声も上がった。

 「お盆は1年で一番のかき入れ時。短縮営業はつらい」。要請対象エリアの法善寺横丁近くで串カツ店を営む女性(64)は落胆した。

 店は午後11時30分頃まで営業しており、要請を受けると3時間以上早く店を閉めなければならない。要請には応じるつもりだが、「エリア外のアメリカ村の方が若い人たちで騒がしい。府の職員は街を歩いて判断してほしい」と漏らした。

 府内で10店以上を展開する居酒屋チェーンは1店がエリア内の心斎橋にある。担当者は「例年なら1日50万円を売り上げる主力店舗」と話す。大阪府と大阪市は1日2万円の補償をするとしているが、「その金額では厳しい」と嘆いた。

 31日夜、同僚と道頓堀に飲みに来た男性(47)は「この街が好きで、自粛ムードが本格化する前に来た。ミナミは陽性率が高く、府の要請は仕方ない」と残念がった。

 エリア内への風評被害を懸念する声も。戎橋筋商店街で洋服店を営む男性(44)は「行政から感染拡大地域と指定されたようなもので、少しずつ戻ってきた客足がまた鈍ってしまうのではないか」と不安そうに話した。

 一方、アメリカ村でバーを経営する男性(34)は 安堵 あんどの表情を浮かべつつ、「店内の換気など感染防止策を徹底しながら営業したい」と語った。居酒屋チェーン「鳥貴族」の加盟店2店はエリアの境界から数十メートル外側にあるが、通常午前0~2時までの営業時間の短縮を検討する。広報担当者は「ミナミ全体で感染リスクが高まっており、深夜営業は世間の理解を得づらい面がある」と話した。

読売新聞から(引用)
2020/8/1