日本では7月1日から小売店のレジ袋が有料化されているが、タイではすでに1月1日にレジ袋が廃止され、自身で買い物袋やエコバッグを持参するか、店頭で有料袋を購入する必要が出ている。だが、当初こそタイ国民たちに歓迎されたものの、コロナの影響もあって、プラスチックゴミはむしろ増加するなど、早くも迷走し始めている。(タイ在住ライター 高田胤臣)

レジ袋の廃止で 顧客も店舗も大混乱
 タイの主要小売店は今年1月1日からレジ袋を廃止した。

 日本が法律で有料化が義務付けられたのに対し、タイは小売業者協会が始めたもの。協会加盟店が50社近くあり、タイ国内でおよそ2.5万店舗がレジ袋を廃止したことで、かなりのレジ袋の利用が抑えられ、廃棄物の減少が期待されている。

 とはいえ、外食文化が強いタイでは屋台や市場などで食品を購入して帰る人が多く、小売業協会の加盟企業以外はいまだ使い捨てのビニール袋などを使用している。

 いずれにせよ、このレジ袋廃止は当初、タイ国民から歓迎されていた。開始早々の1月上旬はレジ袋がなくなったことをいかに楽しむかを競うようにSNSに投稿するタイ人が相次いだ。

 どれだけおもしろく商品を持ち帰るかにアイデアを巡らせ、たとえば洗濯カゴや手押し車を持ち込んだり、会計後に布を広げて日本の風呂敷のように商品を包んで帰る人もいた。また、大きな水瓶、鳥かご、魚を干すアミなど、ユニークなアイデアがたくさん出て、国内外のメディアでも紹介された。

 しかし、それも落ち着いてくると、現実的に面倒が多いことへの不満がくすぶり始めた。

 一番の問題点は、レジ袋に慣れていたが故に袋を持参することを忘れやすいことだ。

 レジ横などには有料のエコバッグも置いている。タイの場合、サイズによるが安いもので7円程度、中くらいのサイズで35円程度から売られる。安いとはいえ、買い足す回数を重ねればそれなりの金額になってしまう。

 コンビニも気軽に立ち寄ることができなくなった。飲み物をひとつ買うくらいなら問題はないが、ちょっとした夕飯レベルのものを買うとすれば、やはり袋が必要だ。

 混乱は顧客側だけではない。店側も同様で、昨年末まで使っていたレジ袋が余って在庫になっているケースもある。なにより、持ち帰れないほど買ってしまった客にどう対処するかに頭を抱える事態になっている。一人に余っているレジ袋を渡せば、ほかの客にも渡す必要があり、レジ袋廃止の取り組みの意図が瓦解してしまう。

海洋生物の被害報道で レジ袋廃止を歓迎
 タイがレジ袋を廃止した背景には、海洋生物への悪影響がある。

 タイでは年間およそ450億枚におよぶレジ袋が利用され、そのほとんどが使い捨てられている。一部の報道ではこうした廃棄物を海洋に垂れ流す国としてタイがワースト6位に入るという。

 ウミガメやジュゴンなど大型の海洋生物の死骸が多数発見され、その死因がレジ袋などを吸い込んだことによる窒息などとされた。

 昨年12月10日のタイの報道では、国立カセサート大学水産学部の研究者の発表としてタイ南部の海岸や沖合において、ゴミで死んだとみられるウミガメが数週間で13頭も確認されたという。

 当時、タイ海洋沿岸資源局が発表していた2019年のウミガメ死亡数は23頭。これは過去最多で、レジ袋の廃止などに取り組む必要があると叫ぶ人が増えた。

 タイは国民の94%が仏教徒といわれ、無駄な殺生を嫌う。首都バンコクには日本のように野良犬などを回収する保健所施設があるが殺処分は行われず、生涯、施設で面倒を見ていく。

 そんな国柄であり国民性なので、海洋生物が人間の出す廃棄物で死ぬことに心を痛める人が多く、レジ袋の廃止は歓迎された。

レジ袋が減り ゴミ袋需要が増加
 東南アジア各国は現在、新型コロナウイルスの感染抑止のため、それぞれが日本と比較してかなり強硬な手段に出ている。タイは今月から規制緩和が始まっているが、外国人の入国はほぼ不可能な状況。同時に、タイ国内では3月下旬の政府による非常事態宣言発出から飲食店や小売店の営業も制限された。

 しかし、いわゆるライフラインは確保され、飲食店もデリバリーとテークアウトは規制対象外だった。そのため、使い捨てのプラスチック容器やビニール袋の需要が高まった。コロナ禍で売り上げが減少する企業が多い中、容器メーカーなどは特需に沸いたようだ。

 タイは日本と同様、スーパーのレジ袋をゴミ袋として使う家庭が多い。レジ袋が廃止されれば別のゴミ袋を手に入れなければならない。

 一部報道によれば、今年4月のバンコクにおけるゴミの量は、コロナで家庭ゴミが増えたこともあり、前年同月比で62%の増加となったという。

レジ袋の廃止が 小売店の業績に影響
 環境改善に関連する吉報もある。

 タイ国立海洋公園管理センターは4月22日、タイ南部の海洋で30頭ほどのジュゴンの群れが泳いでいるところを確認したと発表した。

 さらに、有名なリゾート地であるプーケット県の砂浜にもウミガメの巣穴が11カ所見つかったと、地元紙が報じている。これは過去20年間で最多だそうだ。

 だが、環境改善はレジ袋廃止が理由ではなく、新型コロナウイルスの悪影響で外国人観光客が激減したことがゴミ減少につながって、頭数が増えたと考えられる。

 コロナにより外国から一切の観光客が来ない上、タイ人の国内観光も2カ月以上も自粛していた中、レジ袋廃止による環境改善を確認することは難しい。

 小売店の中にはレジ袋廃止による業績低下を懸念する声も出始めている。

 これまでタイでは買い物をすればレジ袋をいくらでもただでもらえた。だから買い物の量に気を配る必要はなく、大型のカートいっぱいに商品を乗せてレジに並ぶ人がほとんどだった。

 しかし、今は自分が持参する袋の容量以上の買い物ができない。その影響なのか、タイ商工会議所によれば、スーパーやデパートなどの売り上げは減少しているという。

 こうした中、一部のコンビニでは本部に内緒でレジ袋をただで渡している。また、あるスーパーでは入荷商品が梱包されていた段ボールを、買い物袋がない人のための無料サービスとして配布し始めている。

 タイ商工会議所も打開策は見つかっていないようで、「各社でサービス改善やキャンペーン実施で売り上げを回復するように応援している」といったことをコメントしているだけだ。レジ袋廃止は今しばらく迷走が続きそうである。

ダイヤモンドオンラインから(引用)
2020/7/30