こんばんは、のいです♪

 

 

 

少し大袈裟なタイトルですが、ウイスキーにハマって、ジャパニーズウイスキーについて知ったときから思っていたことに、

最近、また考えさせられることがあったので、思いきって書くことにしました。

全体的に批判的な内容が多く、特に特定のメーカー様に対してその傾向が強い文章になってしまったと思います。

なので、可能な限り事実を調べて書いたと思いますし、調べきれない部分に関しては、推測や感想である旨の記載をしたと思います。

それでも、記載漏れや事実と違う部分がある可能性もあるので、その際には指摘して頂ければ、と思います。

あと、知識・経験ともにまだまだ浅く、推測も本質とかなりずれているかもしれません。

その辺りをご理解頂ければ何よりです。

 

 

 

①ジャパニーズウイスキーって、何?

前置きが長くなりました(笑)

 

まず、「ジャパニーズウイスキーとは何やねん?」という話から入ります。

このブログでも、何度か触れてきたと思いますが、

「ジャパニーズウイスキー=日本国内で作られた(蒸留された)ウイスキー」ではありません。

正確には、「ジャパニーズウイスキー=日本国内で瓶詰めされたウイスキー」です。こちらが正解です。

後で詳しく触れますが、スコットランドやアメリカのウイスキーの原酒を輸入し、日本の工場で瓶詰めしたら、

それは「ジャパニーズウイスキー」と呼んでも、今の法律では、何の問題もないんです。

 

では、「ウイスキー」というお酒の、正確な定義は?という話をしたときに、ちゃんと答えられる人は、どれくらいいるでしょうか?

ざっくりと、「大麦で作った蒸留酒」と言える人は多いかもしれませんが、正確ではありません。

日本の法律で定められているウイスキーの定義は、

 

次に掲げる酒類(イ又はロに掲げるものについては、3のロからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)をいう。

発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。)
発芽させた穀類及び水によつて穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。)
イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10以上のものに限る。)

となっています。なんのこっちゃですね(笑)

簡単に言うと、(イ)はモルトウイスキーのことで、「発芽させた穀物(大麦)を発酵・蒸留したお酒」で、

(ロ)はグレーンウイスキーのことで、「発芽させた穀物(大麦)と、それ以外の穀物を混ぜて発酵・蒸留したお酒」ということで、

(イ)も(ロ)も、焼酎に該当するものは除く、ということです。

これは、ほとんどの国と似たような定義になっているんですが、

スコットランドのように「3年以上熟成させる」といった、熟成期間に関する決まりや、

スコッチの「オーク樽に限る」、バーボンの「内側を焦がしたオークの新樽」のように、熟成させる樽に関する決まりはありません。

さらに問題なのは(ハ)で、ざっくり言うと、

「(イ)と(ロ)が10%以上入っていたら、水や香味料や着色料や他のお酒(スピリッツ)を混ぜてもOK、ウイスキーと名乗れるよ」ということです。

これは、僕が知る限り、他の国にはない「ウイスキー」の定義です。

その昔、ウイスキーは舶来品・高級品だった時代に、庶民にも手が届く存在にしたい、というところからのものですが、

問題は、この「混ぜ物をしていい」という定義そのものより、「原材料の表示義務がない」というところにあると思っています。

 

 

②混ぜ物だらけのジャパニーズウイスキー

そう、原材料の表示義務がありません。

さらに言うと、原材料の一部だけを表示することもできます。

例えば、モルトとグレーンをブレンドし、そこに基準ギリギリまでスピリッツで水増しし、ウイスキーらしく着色したもので、

原材料のところに、「モルト」と「グレーン」だけ書いてあっても、違反にはならない、ということです。

 

そんな詐欺まがいのものがあるのか、という話ですが、実は結構出回っている(あくまで噂レベルです)ようで、

大手で言えば、サントリーのトリス、ニッカのブラックニッカクリア、

その他にも「アルコール度数が37度のウイスキー」は、スピリッツ混和である可能性が高いと考えています。

(表示されていないので断定はできず、あくまで推測や噂の域の話です)

 

そんな中、先日発売された、イオンのトップバリュウイスキーが、この問題に一石を投じました。

小さくて分かりにくいんですが、右下に「原酒比率」と書いてあります。

そして、はっきりとスピリッツが混和されていることが記載されています。

「スピリッツを混ぜてもウイスキーを名乗れる」ということを知らなかった方から特に批判されましたが、

知っていた方からは、「ちゃんと表示していることは評価できる」という意見が多かったように感じます。

実際、僕も後者のような考えで、他の食品と同じように、原材料表示は必要で、義務化されるべきだと考えてます。

 

 

③スコットランド産ジャパニーズウイスキー?

①の最初の方で書いた内容の続きです。

実は、「ジャパニーズウイスキー」の「ジャパニーズ」の部分に、厳格な決まりはありません。

なので、スコットランドで蒸留されたウイスキーを、「バルク」と呼ばれる容器に入れて日本に輸入し、

それを日本で瓶詰めした物なら、「ジャパニーズウイスキー」を名乗ることができます。

(スコットランドでは、樽のままウイスキーを輸出することを禁じているため、違う容器に移し代えて輸出します)

似たような話だと、「伯方の塩」が、国産塩を謳って有名になったものの、

実は、輸入した塩を日本の海水に溶かして作った塩だ、というのがありますね。

 

この話をする上で欠かせないのが、「ピュアモルト倉吉」というウイスキーと、その製造者である「松井酒造」です。

ピュアモルト倉吉に関しては、以前も触れた覚えがあるんですが、

簡単に言うと、中身は大半(あるいは全部)がスコットランド産のウイスキーであるのに、「国産」「ジャパニーズ」を謳って販売し、

その事実が公になり、批判が集中すると、製造者である松井酒造の社長が、下の画像のコメントを、ホームページに掲載しました。

(現在は削除されています)

字が小さくて読みにくいと思うので、要点をまとめると、

・スコットランドの原酒は美味しいし、使って何が悪いのか?

・ウイスキー作りで大事なのは水

・何も知らない素人にいろいろ言われるとメーカーは迷惑する

ということです。

あと、言葉の端々から「他もやってる事なのに、何でうちだけ批判されないといけないんだ」というのが感じられました。

 

言っていることは、もっともな事です。

スコッチウイスキーは、個性の幅も広く、美味しいです。

日本のウイスキーが世界的に高い評価を得るようになっても、そこに変わりはないです。

そして、その美味しいウイスキーを支えてるのが「水」というのも間違ってはないです(もちろん、それだけではないと思いますが)

「日本のウイスキー」と言うだけで、転売等で価格が吊り上げられ、中身が釣り合わないものでも、飛び付いてしまう人がいて、

それを飲んで「思ったより美味しくない」と苦情を言われても、確かにメーカーは困るでしょう。

輸入したウイスキーを混ぜて、ジャパニーズウイスキーと名乗ってるウイスキーは、倉吉以外にもあります。

ジャパニーズと名乗ってなくても、輸入したウイスキーを混ぜた製品を売ってる日本のメーカーはあります。

噂レベルですが、ニッカのシングルモルトを除いた商品(ブレンデッド、ピュアモルト)にも、輸入ウイスキーは入ってると言われています。

これは、スコットランドのベン・ネヴィス蒸留所が、生産したウイスキーの大半を日本に輸出した、という書類が見つかったから、という話を見ました。

(ただ、これに関しては、ベン・ネヴィス蒸留所をニッカが買収していて、ニッカのスコットランド工場と呼んでも良い状態なので、

倉吉と同列には出来ないと考えています)

 

スコットランドから輸入したウイスキーを、容器の名前にちなんで「バルクウイスキー」と呼んだりしますが、

バルクウイスキーを使うこと自体は、何の問題もないと思います。

日本では作れない個性をもったウイスキーもあり、逆にスコットランドでは作れない個性をもったウイスキーが日本にはあるので、

その違う個性同士を合わせることでウイスキーの幅が広がっていくと思いますし、

現に、そういう形のウイスキーで世界的に高い評価を得ている「イチローズモルト」があります。

そして、全く違う個性をブレンドし、美味しいウイスキーに仕上げるというのは、

ブレンダーの技術であり、ウイスキー作りに欠かせない要素のひとつでもあります。

でも、それを、「すべて日本で作られたウイスキー」と誤認させる表現をしたことや、

何よりも、「美味しい」はずの原酒を使って、価格に相応しくない(同価格帯のウイスキーより美味しくない)ウイスキーを作って販売したことが、倉吉に対する批判の中身で、

それを理解しているのかいないのか、消費者をバカにするようなコメントを掲載したことで、さらに批判は拡大しました。

※味に関しては、自分で飲んだわけではないので、詳しく批評するのは控えますが、

愛好家からは軒並み酷評され、普段あまりウイスキーを飲んでない方からも、

おおむね「ハイボールや水割りなら美味しい」と評している点で、お察し頂ければ、と思います。

 

 

④ジャパニーズウイスキーの問題は、「松井酒造のようなメーカーが存在すること」

非常に過激な発言だと思いますが、自分では、これが日本のウイスキー業界の問題について、的を射ている言い方だと思っています。

 

ピュアモルト倉吉は、日本のウイスキー定義が脆弱であることを逆手に取り、

「ルール違反ではないが、モラルに欠ける」ウイスキーであると思います。

さらに、批判への対応のまずさもあり、「悪い意味で」有名になりました。

一方では、このウイスキーが有名になることで、日本のウイスキー定義が脆弱であると、多くの人に知らしめることにもなりました。

 

その後の話。

ピュアモルト倉吉の発売は、はっきりとわかりませんが、H26年の前半頃だと思いますが、

発売元の松井酒造は、H27年にウイスキーの製造免許を取得します。

※自社で蒸留した原酒ではなく、よそから購入した原酒をブレンドしたものなので、販売免許があれば、違反にはなりません。

この頃は、「製造免許もないのに、自社製造を謳って販売している」という批判に対応したものだと思われていましたが、

今年に入り、自社で蒸留設備を整えた、というアナウンスがありました。

そのことも色々な議論を呼びましたが、先日、新しいウイスキーが松井酒造から発売されました。

「シングルモルトウイスキー松井」です。

「シングルモルト」であれば、「単一蒸留所のモルトウイスキーしか使用していない」という意味ですが、

「シングルモルト松井」だから、「松井酒造が作った(蒸留した)モルトウイスキーしか使用していない」とは限らないんです。

自社蒸留でなくても、単一蒸留所のモルトウイスキーを輸入してボトリングしていたら、「シングルモルトウイスキー」です。

スコットランドでは、単一蒸留所のみのウイスキーをバルクに入れて輸出することも禁じています。

(複数蒸留所の原酒を混ぜ、シングルモルトウイスキーと呼べない状態でのみ輸出できる)

ですが、それは「スコットランドの法律でウイスキー」であって、熟成期間が3年未満なら、可能です。

例えば、2年熟成したシングルモルト原酒を日本に輸入し、それを日本でボトリングすれば、

「シングルモルトジャパニーズウイスキー」を名乗れてしまうんです。

 

なので、直接松井酒造さんに聞きました。

間違いなく、倉吉で蒸留された原酒を使われているようです。

そういう部分では、少し安心しました。

それから、自宅近くにある酒販店で販売されていたので、現物を確認しました。

H27年に製造免許を取得され、少なくともそれ以降の物なので、熟成は長くても2年程度、

なのにこれだけ色が濃いのであれば、着色はしてるのだろうと思っていたけど、「ノンカラー」という記載。

確かに、環境によっては、短期間でも一気に色が着くケースもあると思うんですが、

倉吉の前例もあり、何か怪しかったので、先程の画像の「熟成期間に関する質問」です。

蒸留器の導入時期に関しても質問しましたが、具体的な回答は頂けませんでした。

この質問後、「Twitter上での質問には答えないので、聞きたかったら電話で」というメッセージを頂きました。

 

正直、誠意のある対応とは思えず、蒸留器の設置時期に関して、何か公になるとまずいことがあるのか、と思って、いろいろ調べました。

時系列で書くと、

1910 設立(旧小川酒造)

2005 松井酒造として酒類製造・販売開始(?)

2013 社名変更(小川酒造➡松井酒造)

2014前半 ピュアモルト倉吉発売(?)

2015.4 倉吉市河原町でウイスキー製造免許取得

2015.4 倉吉市河原町の社屋が鳥取県指定保護文化財に指定

2017春頃(?) 蒸留施設稼働開始

2017.12 倉吉市上古川にウイスキー製造免許移転

2018.11 シングルモルト松井発売

 

ここから判断すると、「シングルモルト松井」は、

「焼酎用のステンレス製蒸留器で蒸留し、1年半程度熟成させたウイスキー」

と考えるのが、一番妥当だと思います。

こちらの真ん中(字が小さくて読みにくいですが)に、「昨年春から稼働しているウイスキー蒸留所を初めて一般公開」と書いてあり、

これ自体が今年のニュース動画なので、ウイスキー蒸留開始は2017年の春と推測できます。

また、「一般公開は最近ですが、以前からあったもので蒸留しています」という回答があったので、

新規導入したウイスキー用の蒸留器ではなく、以前からあった焼酎用の蒸留器で作ったもの、と考えるのが妥当です。

焼酎用の蒸留器でウイスキーを作るのは可能です。

岡山にある宮下酒造も、ウイスキー製造を開始した当初は、焼酎用の蒸留器でした。

ウイスキー用で一般的な銅製と、ステンレス製の大きな違いは、

銅は不純物を吸着しやすい、という部分になると思います。

(飲み比べたわけではないので、味にどの程度影響があるのかはわかりません)

追記:松井酒造さんが導入したのは、ウイスキー用の蒸留器ではなく、香水用の蒸留器でした。

 

※気になるのは、「昨年春に稼働したウイスキー蒸留所」という部分で、

昨年春の時点で、ウイスキー蒸留所がある上古川ではウイスキー製造の免許が無いので、

もしもここで製造(蒸留)していたとなれば、無免許製造で酒税法違反となる可能性があります。

酒造会社がそれを理解していないとは思えないので、おそらくは「(焼酎用の蒸留器で)ウイスキー蒸留を開始した」ということだと思います。

(ここの調査や追求をするのは、今回のブログの主旨と外れるので、やりません)

 

さて、この「シングルモルト松井」の正体が見えてきました。

・焼酎用の蒸留器で蒸留

・熟成は長くても1年半

この時点で、「4500円(税別)」という価格には相応しくないスペックだと思います。

蒸留したての、全く熟成していないニューポットと呼ばれるものを、もっと高額で販売している蒸留所もありますが、

そのほとんどが、それまでにウイスキー以外のお酒も作っていない会社で、熟成させている間の資金確保の面であったり、

ニューポットはワインで言う「ボジョレーヌーヴォー」的な位置でもあるため、

その蒸留所で作るウイスキーの方向性を示すものでもあります。

松井酒造は、以前から「干し芋焼酎」を作って販売していたり、倉吉の販売で相当の利益が出ているはずなので、

資金確保の面では、ニューポットを販売しなくても十分に足りていると思います。

また、「ニューポット」として、蒸留所の方向性を示すのであれば理解できますが、

どこを見ても「ニューポット」あるいはそれと同義の言葉の記載はないため、方向性を示す意図も無いと思います。

それどころか、「since 1910」という表記もあったり、

(設立はその年ですが、ウイスキーを作り始めたのは…?)

サントリーの山崎そっくりのラベルであったり、

「誤解を生じさせて販売する」ことを目的にしていると言っても、過言では無いと思います。

(サントリーさんが何も動いてない以上、あんまり追求はできませんが)

価格がシングルモルト山崎NA(年数記載がないもの)の定価と同程度ですが、

山崎NAは、平均すると9年程度熟成させた原酒を使用している、という話を聞いたことがあります。

(それより短いものも、長いものも使って、平均の年数が9年、です)

一般的には長い方がいい、と言われますが、短くても美味しいものはあります。

また、スコットランドと日本を比べると、日本の方が気候的に、短い期間でも熟成が進みやすい、と言われます。

現に、「あかし(江井ヶ嶋酒造)」は、3年から5年で熟成のピークを迎えるものが多い、と聞きました。

だとしても、「1年半」で十分熟成できているとは考えにくいですし、価格に見合う味になっているか、と言われると…どうでしょうか。

それから、商品説明に「純国産」とあります。

材料の麦芽やピートも国産なんでしょうか?

答えは、「No」です。

見学に行かれた方が、「原料の大麦は外国産」というツイートをされていますし、

国産のピートはほとんど無く、入手しようと思うと、相当な額になるはずです。

モルティング(大麦を発芽させる工程)も、記載はないんですが、恐らくは海外でやっていて、

その工程を終えた麦芽を輸入しているものだと思います。

「純国産」という言葉にも、明確な定義がないので、蒸留や瓶詰めを国内で行えば、

他が海外でも、「純国産」と言っても違反にならないんだと思います。

さらに、松井酒造が現在頻繁に試飲会をしているのは、空港免税店や、スーパーや百貨店などの酒販コーナー。

「シングルモルト松井」を販売しているのは、ウイスキーに特に力を入れず、地酒などをメインに扱う酒販店。

どこをターゲットにしているか、はっきりしていると思います。

この辺りから、シングルモルト松井の評価として、僕個人は、「飲む価値がないウイスキー」と判断しました。

 

ある意味、自身の立場を理解していて、「商品を売ること」に対しては非常に研究されていると思います。

日本のウイスキー愛好家には、完全に悪評が定着しているので、

世界的に評価が上がってきているジャパニーズウイスキーを買いに来た外国人や、

国内でも、ウイスキーは普段あまり飲まない層をターゲットにしている。

そこ自体が問題ではなく、そこに見合う質が確保できているのか疑わしいことと、

「それだけの質がある」と見せかける表現を多用していることが問題なんだと思います。

 

結局、「ピュアモルト倉吉」の頃の姿勢から、何一つ変わってないわけです。

ただ、これが「ルール違反」ではないので、「売り上げを伸ばす努力」と言ってしまえば、反感を買っても、それまでなんです。

「ルール違反ではないし、そうすれば売れるから、やってる事」に過ぎないんです。

 

こういうことが出来てしまうくらいに、日本のウイスキーのルールは、穴だらけ。

ちゃんとルールを作っていけば、批判を多く浴びる「松井酒造のようなメーカー」は存在しないでしょう。

そういうメーカーが存在できてしまうことが、日本のウイスキー業界の問題点なんです。

 

※松井酒造さんに対する批判を多く書きましたが、

個人的には、ちゃんと蒸留施設を整備したことや、「売れる商品を作り出す努力」という点に関しては、評価できると思っています。

 

 

⑤日本のウイスキーの未来について考える

こういう形で、松井酒造さんのお陰で、日本のウイスキーの問題がどんどん表面化していき、

僕がまずネガティブに捉えたのは、「ジャパニーズウイスキーのキャンベルタウン化」です。

ジャパニーズウイスキーの人気が高まり、特にアピールをすることもなく、かつ質にこだわったものでなくても高値で売れてしまう、という現状があります。

これは、ウイスキー作りにおいて、昔は非常に多くの蒸留所が存在した、スコットランドのキャンベルタウンという街に似ています。

キャンベルタウンは19世紀、ウイスキーの原料となる大麦の生産が盛んで、かつ、当時のウイスキー作りに欠かせなかた石炭も採れ、

かつ、輸出にも有利な港町だったため、ウイスキー作りが非常に盛んでした。

しかし、20世紀に入り、ウイスキーの生産規模拡大で、大麦や石炭が不足したこと、

第一次世界大戦で市況が悪化したこと、輸送が海路から空路に代わり、港町である利点が無くなったこと、

そして、粗悪なウイスキーばかりをアメリカに輸出し、嫌われたことで、次第に衰退していきます。

当時のアメリカは禁酒法時代で、密輸された高額かつ粗悪なウイスキーでも需要があったんですが、

1933年に廃止されると、安価で質も高いウイスキーが出回るようになり、

ブランド力を失ったキャンベルタウンのウイスキーは、どんどん減っていった、という歴史があります。

現在の一部のジャパニーズウイスキーも、粗悪品と言うと少し過剰ですが、

少なくとも「価格に見合わない質」のものもあり、そう言ったものも外国人に買われている、というのも事実です。

その多くが、「ピュアモルト倉吉」の手法を真似ていて、

輸入した原酒をふんだんに使い、さも日本で作ったような名前やラベルをつけ、

批判を避けるために「どこのどんな原酒を使ったか」ということだけは明記した、というようなウイスキーです。

サントリーやニッカが作り上げた「ジャパニーズウイスキー」の評価を、

ブームに乗り、名前だけ「ジャパニーズ」のウイスキーが落としているのも、事実です。

情報を手に入れるのが簡単な世の中なので、キャンベルタウンのように、ジャパニーズウイスキー全体が落ちることはないと思いますが、

やはり、影響は少なからずあると思います。

 

解決する方法としては、まず、「ジャパニーズウイスキーの定義」をはっきりさせることだと思います。

幸い、2017年の段階で、こうした「定義」についての議論が、洋酒酒造組合で始まったようです。

まだまだ具体的な話にはなっていませんが、2020年を目処に、具体化される予定です。

(この年ということに、何かしらの意図は感じますが)

あくまで、組合での議論なので、法制化というところではないと思いますが、

それでも、組合の中で明確にルール化されれば、もう少し「売れること」よりも「質」にこだわったウイスキー作りが進むと思います。

個人的には、

・原料表示の義務化

・原産国(使っている原酒の蒸留地)の表記

・スピリッツを混和したアルコール飲料に「ウイスキー」以外の名称をつける

・輸入原酒を使用した場合、「国産(あるいは類似の表現)」表記の禁止

・熟成期間が3年(または2年)以下の原酒を使う場合、それに関する表記の義務化(ニューポット等の表記)

といった規制が妥当ではないかと思っています。

 

あとは、恐らく日本の「ウイスキーブーム」は、そんなに長く続かないと思いますし、

ここ数年で新しく出来た蒸留所が、それなりの熟成を経て、いよいよ完成品を世に出すぞ、という頃には、

もうブームが去り、一般には見向きもされなくなっている、という可能性もあります。

そうならないよう、サントリーやニッカなどの大手も努力していると思いますし、

個々の蒸留所もそれぞれに努力していると思いますが、

それぞれに努力するのではなく、「協力する」という形も必要なのではないか、と考えています。

これは僕のアイデアではないんですが、

例えば、日本のウイスキーのみを扱うボトラーズブランドを作って、

(※ボトラーズブランド=自社での蒸留は行わず、蒸留所から原酒を購入し、独自に熟成したりブレンドして販売する会社)

例えば、山崎と余市をブレンドしたウイスキーが世に出せるようになるとか、

土地・気候によって熟成に差が出ることを利用し、同じニューポットを、全国各地の蒸留所で熟成させたシリーズを発売するとか、

オークではない樽で熟成させ、個性が強くなったモルトウイスキーを、ブレンデッドウイスキーにして、強い個性を感じさせたまま、手頃な価格で発売するとか。

(これは僕のアイデアで、そういう商品が出てほしいという希望も込めて、実験をしています)

 

キャンベルタウンの話をしましたが、現在キャンベルタウンで稼働している蒸留所は、3つあります。

最盛期には30を越えていたと言われますが、上で書いた通り、どんどん閉鎖していきました。

3つのうち、1つは2004年に再オープンしたものなので、ずっと稼働しているのは2つだけ、ということになりますが、

なぜ、その2つは閉鎖しなかったのか、という話。

それは、「時代に流されず、質にこだわったウイスキーを作り続けた」からです。

売るためには、いろいろな工夫が必要だと思います。

キャンペーンや、プロモーションや、マーケティングや、その他諸々、重要だと思います。

でも、肝心のウイスキーの質が良くなければ、いずれ見透かされ、売れなくなると思います。

 

「消費者が賢くなって、騙されなくなる」ということも重要かもしれません。

でも、全ての消費者がちゃんと知識を持つことは不可能だし、

そもそも「騙される」と表現しなければいけないような物があること自体がおかしいんです。

だから、ちゃんと質の部分を高めるための、それと誤解を与えないためのルールが作られることを、心から願っています。