ある日の夕方、伊藤先生の自宅に駅伝に関係するメンバーが集まることになった。

 

その日は土曜日だったが午前中は出勤していたので勤務先の近所で昼食を済ませてから向かうことにしたが、それでもそのまま先生宅へ行くには早すぎたし、土曜日だったのに出勤したせいで練習ができて無かったので先生の自宅の近所のグランドで1~2時間練習をすることにした。

 

グランドの駐車場に着いたのが2時半頃だったと思う。クルマの中でジャージに着替えてグランドへ歩いて行った。全天候型のグランドでは無いが400Mのトラックがあり跳躍や投擲の競技もできるし、夜間は照明も使用できる立派な施設である。

 

トラック外周の芝生の上をゆっくりと走り始めたら、少し先のゴール地点のやや外側にうつ伏せになって寝ている人が見えた。「昼間から酔っ払いかよ…、結構な御身分ですね」と心の中で呟きながらその横を通り過ぎた。2周走っても3周走ってもその酔っ払いはピクリとも動かないが、寒い日ではなかったので「そのまま寝かせておけ」という気持ちだった。だが5周ほど走ると、それにしても動かないなぁ…と不審に思い傍に行って声を掛けた…が反応ゼロ。右肩付近に手を当てて若干揺すってみても反応ゼロ。もしかしたらちょっとヤバい状況なのかもしれないと思い「よいしょ」という感じでその人の身体を仰向けにひっくり返した。その蒼白い顔を見た瞬間は腰が抜けそうなほど驚いた。こ、これは間違いなく死んでいる…こんな時テレビドラマ等では「キャー」とか叫ぶのかもしれないが、その時の私は口を半開きにした後で息を呑むのが精いっぱいだった。