オリンピックへ3度出場し、メキシコオリンピックでは銀メダルに輝いたあの君原健二さんが、私たちのために講演会(のようなもの)を開いてくれる、ということがあった。実際には別の目的で近くまで来られたので、そのついで(?)の会だったのかもしれないが、私にとっては一大イベントであり同時に改めて伊藤先生の偉大さを感じた。

 

その会では「質疑応答」のような時間が設けられる、というので「にわかファン」では思いもつかないようなとっておきの質問をしようと決めていた。そのためかなり前に読んでいた君原さんに関する2冊の本である「僕はなぜ走るのだろう」と「マラソンの青春」を久しぶりに本棚から引っ張り出して読み直した(あんな田舎町でこれらの本の存在を知っている人は恐らく誰一人として居ないはずだし)。質問はやはりオリンピックの銀メダルに関連するものが王道かと思い…そして決めた。

 

講演会会場へ着いた時、こんな役場の古い会議室でしかも僅かばかりの椅子を並べただけの場所にあの君原さんが本当に来てくれるのか…と心配した記憶がある。…が間もなく伊藤先生の後に続いて君原さん本人が現れ、そして私たちの前に若干向き合うように並べられた二つの椅子にお二人が座った。オリンピック銀メダリストのオーラを感じない…朴訥とした感じで話すその辺のオジサンのようだった。でも予想と違って話好きだった。この普通過ぎる印象とオリンピック銀メダリスト(しかも陸上競技)とのGapに改めて痺れてしまった。

 

そして待ちに待った質疑応答になった。最初から結構なインパクトがあるはずの私の質問をしたのでは他の参加者に申し訳ないので、質問も少なくなり始めた頃に…満を持して「メキシコオリンピック完走後のインタビューで…」と切り出した。そして「当時奥様が妊娠中だったので生まれてくる子供には“太陽の国メキシコ”に因んで“陽子”と名付ける、と言っていたのですがこれは本当ですか?」と質問した。すると君原さんは「それは嘘です」という予想もしていなかった回答に私は唖然とした。続けて「私に女の子の子供はおりません」と言われた時には膝から崩れ落ちそうになった。そして質問は直ぐに次の人に移った…。

 

憧れていた君原さんの講演会だったのに私は頭の中が真っ白になりこの私の質疑応答以外の話の内容については何も覚えていない…。本に書かれていたインタビューの内容は事実だったとしても、実際にはどうだったのかとう裏取りが不十分だったことを大いに反省した。