私の実家が東北地方にあった頃、そこには伊藤先生という地元の高校の教師をしている方が居た。私の父親は元々そこの出身だがその地へ戻って住み始めたのは私が大学在学中だったので、私はそこに住んでいる人たちのことを殆ど知らない。それ故、伊藤先生の過去の実績や功績についても(実は今でも)殆ど知らないのだが、とにかく陸上関係に顔が効く方だった。

 

当時、日本電気ホームエレクトロニクス(NEC-HE)の陸上部の監督は佐々木功さんという方で「ゆっくり走れば速くなる」という理論の本も出版したその筋ではかなり有名な方だ。その方が伊藤先生の教え子だったようでNEC-HEの陸上部が伊藤先生を慕って私たちの地元で合宿をすることになったことがあった。その頃その陸上部には飛ぶ鳥を落とす勢いの本田竹春さんという日本を代表するランナーも所属していたこともあり、伊藤先生のこれまでの功績の凄さを知ることができた。

 

当然、その陸上部と私達素人集団との実力の差は天と地程もあるので合同練習なんて言葉は口が裂けても言えないが、夕食後の集いに関する実力については同等レベルか或いは私達素人集団の方が勝っている可能性が高いので一緒に飲む機会が設けられた。その席で本田竹春さんからビールを注いでもらう機会があったが、日本のトップランナーにこんなことをしてもらったら世間が許してくれないのでは…と焦った思い出がある。

 

監督の佐々木功さんはその前に東洋大学陸上部の監督経験もあり、学生時代の仙内くん(現旭化成陸上部コーチ)や佐藤和也くん(箱根駅伝の1区で区間新記録を樹立)の話等も伺うことができてとても有意義な時間を過ごすことができた。また陸上部唯一の女性部員であった浅井えり子さんとの仲睦まじい様子は傍で見ていても微笑ましかった。

 

佐々木功さんは病気で人生を終えることになってしまったが、日本の陸上界に於ける功績は計り知れないものがあると思う(私が言うのもおこがましいが…)。