魚を食べるのが上手だった。手品師のような見事な箸捌きで、その身だけが次々と消える様に無くなっていく。最後はまるで「骨だけは食べないピラニアの仕業か?」と言いたくなるような見事な出来栄えだった。

 

結婚前の母親は郵便局に勤めていたことがあり、お札を数えるのも上手だった。これまた手品師がトランプを広げる様にお札を広げたり、左手にお札の束を持って右手で機械のようにそれをシャカシャカと数え、そして最後の1枚の時にパチーンという音を鳴らしたりするのだ。カッコ良かったなぁ~!

 

この郵便局勤めの経験と几帳面な性格を持ち合わせていた母親が、毎夜就寝前にしていたのが家計簿付けだ。テレビの奥の棚に、過去20~30年分の家計簿が置いてあったのを覚えている。それらが全て同じ出版社(主婦の友社?)のものだったから、これも自慢できる母親のコレクションのひとつだった。

 

だが、そんな母親でさえ前日の家計簿に記録されていた残金と財布の中身との差分がその日の使用金額とイコールにならない日が稀にある。購入時のレシートやその他の支出の記憶を頼りにその絶対値を徐々にゼロへ近づけるのだが…、それがマイナスの時は恐らく粉飾決算により何かの購入価格を高く記録していたか、或いは使途不明金として計上していたはずだ。逆にプラスの時は、そのプラス分を専用の貯金箱へ入れていた。だからその貯金箱の中には1円玉と5円玉しか入っていない。さして大きな貯金箱ではなかったが、それが一杯になると私がそれを郵便局へ持って行って、それ専用の通帳へ入金していた。今のような便利なコインカウンター(硬貨計量器)は当然無く、2種類の硬貨を10枚ずつ重ねて全てを丁寧に並べて計数してくれた。それをいつも担当してくれた窓口のお姉さん、目が大きくて優しい人だったなぁ…。