かつては若者文化の象徴ともされたことがあったジーンズは、今では衣料量販店などで大量販売され、高級ブランドでも品揃えするなど、すっかり多くの人々の普段着となった。社会の束縛を嫌ったり、自由に生きることを主張する若者がはくといったイメージは過去のものとなり、そうしたイメージはジーンズ着用から抜け落ちた。

 

 若い頃からジーンズをはいていただろう人たちが、すっかり高齢者となってもジーンズをはいている姿を見ることは日常の光景だ。老いも若きも男も女も着用するようになり、ジーンズは特別なものではなくなった。それとともに、スタイリッシュにはくものというイメージは希薄になり、ダボダボだったりヨレヨレだったりとジーンズ姿は様々だ。

 

 若い頃は颯爽と細身のジーンズをはいていた友人は、結婚して食生活が安定したためか太り始め、若い頃にはいていたジーンズがきつくなり、30代半ばでジーンズをはかなくなったという。でも、捨てたりすることはなく大事にジーンズを持ち続け、退職して東京を離れ、関東北部の自然豊かな町に移住した時にも、「はかないんだから、もう捨てたら?」という奥さんの言葉を無視してジーンズを手放さず持ってきた。

 

 街歩きが趣味だったという友人は、移住先の自然豊かな環境をすっかり気に入り、移住して3年ぐらいは、毎日のようにあちこち歩き回っていたそうだ。「同じ道を歩いていても、日によって、季節によって何か発見があるんだ」「花など植物はもちろん、鳥や小動物、昆虫などとの出合いがあったり、光線の加減で家並みや通りの見え方も違ってくる」と友人は気ままな散策を楽しんでいる。

 

 「歩き回ることには意外な副産物があったんだ」と友人は嬉しそうに話すので、新しい飲み友達ができたのかと聞くと、「それもあったが、体重が減った」。友人は東京にいた頃は腹が丸く出っ張っていたが、見ると、腹の出っ張りが目立たなくなっている。よっぽど一生懸命歩いたんだなと言うと、「ダイエットなど意識したことはない。ただ、歩き回るのが楽しくて、天気が良ければ、ほとんど毎日歩いていた。気に入った蕎麦屋まで片道2時間、車を使わず歩いて行ったことも結構あったよ」と友人。

 

 移住して3年で体重が10キロ以上減ったという友人は、年末の大掃除の時に衣装ケースにしまったままのジーンズに目が留まった。もしかすると、また、はくことができるかもしれないと友人はジーンズを衣装ケースから取り出し、はいてみた。足は支障なくジーンズに入り、ウエストのフロントボタンも無理なく止めることができた。何十年ぶりかのジーンズ姿を奥さんに見せに行くと、若返ったみたいと褒められたそうだ。

 

 ジーンズは6本あったので「毎日、ジーンズをはいて暮らすようになった」友人は、他の衣装ケースにしまったままの上着類やシャツなども引っ張り出して着るようになった。「いつの間にか地味な色の服ばかりを着るようになっていたが、若い頃に着ていた明るい色のものを着ると、なんだか気持ちも軽くなる」と友人は、若かった過去からの贈り物を楽しんでいる。