昔、私はウズラを飼っていた。中学生の頃。縁日でひよこ釣りならぬウズラすくいをして連れて帰ってきたのだ。ひなのウズラのかわいさは驚くべきものだった。大きさは親指くらい。そう親指姫ならぬ親指ウズラ。羽は小さく丸まっていて、体毛はほわほわ。記憶の中のひなウズラの映像を思い出しただけで愛しさが込み上げる。さて、子供が連れてきたペットは親が世話することになるのだが、うちの母は生き物を飼うのがとても上手だった。ひなウズラに餌をやり、電気あんかで温め、ウズラは無事元気な成鳥になったのだった。成鳥といってもヒヨコくらいの大きさだ。思えば母はオタマジャクシもザリガニも、カブトムシもクワガタも、ゲンゴロウもメダカも金魚も、巣から落ちていたズズメのヒナも、全ての生き物を可愛がり、育ててくれた。とにかく生き物に優しく、また生き物たちもすくすくと育ち、長生きするのだった。だがそんな心優しい母には恐るべし欠点があった。優しすぎて、生き物を窮地に追い込むのだ。母はウズラをケージにずっと入れていてはかわいそうだと、一部屋をウズラべやとし、その部屋にケージを置き、日中はウズラを放し飼いにしていた。夜にウズラはケージに戻る。始めはその部屋だけで自由に動き回っていたウズラだが大きくなったウズラはひとなつっこく、母や私の後を追いかけてくるので、母の部屋やら居間やらにウズラがやってくる。そのうち、ウズラのテリトリーは全部屋に及ぶこととなった。そんなある日、母の部屋から母の悲鳴が聞こえた。「ピーちゃん!ピーちゃん!」ピーちゃんとはウズラの名前だ。私が駆けつけると、母が泣きそうな声で私に言った「お母さん、ピーちゃんの上に座ってた!ピーちゃんがつぶれて気絶してる、死んじゃう」と。見ると母の手の中でウズラは仰向けになりぐったりしている。母はウズラがいるとは気付かず、ウズラをお尻に敷いて座ったようだ。母は小太りで体重80キロ。ウズラの体重は30gくらいだろうか。圧死まちがいないではないか。母はおっちょこちょいな性格だが、まさかウズラの上に座るとは。私はびっくりしすぎて、「えぇ!?」としか言えなかった。が次の瞬間、私は見たことのない光景を目の当たりにする。母がぐったりしているウズラのぴーちゃんのくちばしを自分の口にくわえ人工呼吸をし始めたのだった。必死にふーふーと息を吹きこんでいる。ギャグではない。ふーっ、ふーっと息づかいが聞こえる。本気で鳥への人工呼吸が始まった。息継ぎする瞬間「ピーちゃん生きかえりなさい、ピーちゃん」と声かけしている。驚きすぎて私の方が気絶しそうになる。いかん気絶しては、気をしっかり持たねば。ピーちゃんが死んじゃうかもしれないのに。そう思った時、奇跡が起きた。ウズラが目を開けたのだった。そして起き上がった。えええー、私は喜びというより驚いていた。母は「ピーちゃん、ピーちゃん、良かった」と涙ぐんで喜んでいた。その後もウズラは10年ほど元気に生きた。
あぁよかった、ウズラが死なないでよかった、、、私の母がこの人でよかった、、、あぁよかった、、、