母は80才。寝たきり状態。口の動きもままならぬ。発声自体が弱々しく、声は小さい。食べ物も嚥下機能の低下で飲み込みにくく食が細くなってしまった。母はぼーっとしていることが増えて、語彙力も異常になくなり、会話がほぼできない。母とのおしゃべりが大好きだった私は寂しい気持ちでいっぱいだ。そんなセンチメンタルを抱え私は一人涙することも増えた。母は食べることが大好きな食いしん坊だった。私は母に喜んでほしくて、たくさん食べてほしくて腕によりをかけて母の食事を作る。そんなある日、夕食後めずらしく母がしゃべった。私に向かって「あなたに言っておきたいことがある」と。神妙な顔つきをしている。な、なんだろう、、、突然ペラペラと。遺言だろうか、悲しすぎる。息をのんで、聞き入る私。母が重い口を開く「砂糖を、、、きかせて」「はっ?」聞き返す私。母は絞り出すように言う「砂糖を、、、足して、、、豆に」ずっこける私。さっき金時豆を甘く煮たものを食べさせたが、砂糖が足りなかったらしい。母よ、なぜ妙な言い回しをチョイスするのか。母よ、私のセンチメンタルを返せ。不意に頭をハリセンで殴られたような衝撃を感じながら、いや、ハリセンではたかれねばならないのはむしろ母の方なんだが。「わかった、うん、足しとくね砂糖」そう返事して、だが思った、よかった、母は母のままだ。食いしん坊で味にうるさい母のままだ。よかった、あぁよかった、、、