自由貿易条約ラッシュが止まらない。
日本でTPP(環太平洋連携協定)交渉参加の是非に関する国内議論が白熱する中、海の向こうでは世界最大規模となるであろう、もう一つの〈自由貿易協定(FTA)交渉〉が着々と進められていた。
 2013年2月に米国のオバマ大統領が一般教書演説の中で発表した、EUと米国の2国間包括的自由貿易協定だ。
 上院議員時代、「NAFTA(北米自由貿易協定)は国内雇用を拡大するどころか激減させた」と声高に批判したオバマ大統領は、今回の演説で自信たっぷりにこう力説した。
「この条約が実現すれば、アメリカ国内に多くの高賃金雇用を生み出すだろう」。交渉は今年6月に開始され、遅くても2年以内の締結を目指す。
 米国内でTPPを強力に推進するUSTR(米国通商代表部)や、欧州委員会およびEU内の多国籍企業・投資家たちはこの〈米欧FTA〉を双方に大きなメリットがあるとして歓迎している。
 GDPシェアでは世界の半分、2国間貿易高では世界の3分の1をも占める両国のFTA締結は、史上最大の〈単一自由貿易圏〉を生み出すからだ。
 内容はTPPと同様、投資、関税、非関税障壁、知的財産権、サービス、司法、環境・労働・健康分野における規制撤廃が含まれる。EU側からは米国の金融規制緩和が、米国側からはEUの厳しい食品安全基準や食材成分表示義務の撤廃が要求されるだろう。
 一方、同条約に反対する国民の声も少なくない。 ドイツ在住のエマ・バルテンは、同条約はEUで否決されたACTA(偽造品の取引防止に関する協定)の焼き直しだと指摘する。
「ACTAは定義が広範囲すぎる〈知的財産権〉項目や、ネット規制、言論統制につながるリスクに危機感を感じた人々が猛烈に反対し、EU議会が否決しました。ところがその直後に出てきたCETA(EU・カナダ間自由貿易協定)の中に、〈知的財産権〉その他のACTA条項がしっかり入れられていたのです」
 ACTA条項の導入はリーク文書によって暴露され、両国内では再び反対が拡大、CETAは最終段階で暗礁に乗り上げた。
 カナダ市民評議会のモード・バーロウ会長は、CETAへの懸念をこう語る。
「この条約はカナダの国内農業や医療保険制度を崩壊させます。知財保護強化で薬価は数十億ドル高騰し、ジェネリック薬は手に入りにくくなる。国内法を超越する国際条約は、慎重にみないと後で取り返しがつかなくなるのです」
 もたつくCETAを追い越すように、速度を増してきたのがTPPと米欧FTAだ。 
かつての貿易や関税における合意から、世界はあらゆる分野の広範囲な規制撤廃で市場拡大を目指す流れに向かっている。
NAFTAやCETA、TAFTAにTPP…条約名や頭文字は違えど目指す方向が同じ今、TPPだけ見ているうちに別なもので外堀を埋められぬよう、私たちは注視すべきだろう。
〈自由貿易協定〉に含まれる貿易以外の項目や、それが一体、誰にとっての〈自由〉をさしているのかを。
北海道新聞3月15日付「各自核論」掲載記事