本書は平成7年9月1日に新潮文庫として刊行された。

 筆者は『火車』で知られているように人間の奥深さを独特の構成の中に表現しつくす作家である。

 全七話の物語で本書は編まれている。

 第一話 片葉の芦

 第二話 送り提灯

 第三話 落葉なしの椎

 第五話 馬鹿囃子

 第六話 足洗い屋敷

 第七話 消えずの行灯

 すべての話には50代で25年の岡っ引き歴を持つ、有能な回向院の茂七が事件解決にあたる。

 その事件によって心が傷ついた被害者にはつねに「早く忘れろ」「この世の中そんなに悪くない」と励ます。

 第一話は幼いころ父親を亡くし、母親も病気で倒れた彦次が寿司店として繁盛していた近江屋のお美津の飯の施しによって救われた。その施しはお美津の父親近江屋籐兵衛に見つかり、

 「お美津がおめえにやっているこの飯は、近江屋では捨てる飯だ。それをもらいに来ているおめえはそこらの犬と同じだ」

 と言われる。

 彦治はこの言葉を生きる力に変えてそば屋に勤め成長した。

 その籐兵衛が殺され、お美津に疑いの目が向けられる。

 彦治には飯のやり取りに使われた「片葉の芦」の思い出がある。

 片葉の芦の思い出は彦治だけのもので、お美津にはない。彦治はどうするのか。

 この躍動感がたまらない宮部みゆきさんの魅力である。