本書は平成25年12月5日に幻冬舎時代小説として刊行された。

 つくづく、女性時代小説家は優しいと思う。

 藤原緋沙子さんもそうなのであるが、澤田さんも血を呼ぶ剣の遣い手は登場させず、人間の人生をテーマとさせている。

 本書は、

 蜩の夜

 世間の鎖

 鴉浄土

 師走駕籠

 陣屋の椿

 木端の神仏

 の六話から構成されている。

 書名は鴉浄土になっているが、木端の神仏が胸に響いた。

 あらすじは、京都近郊の吉田神社近くに神木としてあがめられていた樹齢四、五百年になる樅の木があった。村年寄りはその木を必要とした豪商十四屋に手続きを踏んで売ることにした。その木を切るときに騒動が起こり、たまたま通りかかった公事宿鯉屋の居候、田村菊太郎の働きで、彦七という村民が足にけがをするだけで済んだ。

 彦七は、そのとき樅の木の木端だけでも自分の手元に返してくれと頼み、菊太郎は段取りをつけてやった。

 さて、五年後彦七は自ら木端で彫った阿弥陀仏と大黒天を持って鯉屋を訪れる。

 阿弥陀仏は菊太郎に手渡し、十四屋には大黒天を彫ったので渡したい、ついては菊太郎に同道を願いたい、と訪問の目的を告げる。

 足にけがまでさせられながら、その原因となった十四屋の商売繁盛を願って大黒天を彫った彦七。

 彦七は恨みを残さず、木端をきちんと届けてくれた十四屋にもお返しをする。

 人間は恨みに凝り固まれば成長は止まる。彦七も十四屋も成長しながら変化したのである。

 この筆者の人間洞察力には思わずうれしくなった。