本書は2014年4月30日に河出書房新社から刊行された。

 1行1行に筆者の願いを込めた渾身の一作であろう。

 朗読で聞いたなら、耳に怒涛の如く流入する大叙事詩になるだろうと夢想もしてしまった。

 本文から12行分だけ抜粋する。


 私はむろんのこと

  黒牛も

   逸れ鳥も

    トリカブトの花も


     そして

      シラビソの樹上で眠るあの売僧ですらも

       たちまち三味線の音色に心を束縛され


        そんなかれらは

         さまざまな思いにふさがれた心を解き放ち

          情緒の世界に深入りせんがために

           ありったけの聴力をかたむけて

            じっと聴き入る


 この舞台は高原の「巡りが原」であり、登場するのは私、逸れ鳥、トリカブト、売僧、シラビソ、三味線を弾く芸人瞽女である。

 語り手の私は巡りが原であろう。

 この巡りが原には自死志願の人間が訪れ、トリカブトで自死すのだが、上記の生あるものどもは死になどしないで、生をまき散らす。

 瞽女は私の観察に寄れば、聖なる生き方をし、聖なる未来を約束されている人間である。

 懐が深すぎて困った本であるが、下巻も読まなければならないと思ってしまっている。