この時代小説はくどいほどの江戸の長屋の風俗を描いている。

 それが笑いを誘い、涙を誘う。

 この長屋の住人はお店ものであったり、職人であり、生業を持ちながら暮らしている。

 住人が苦境に立つと助ける。

 住人が悲しんでいると手を差し伸べる。 

 余計なお世話をするのである。

 ここの住人は、助けるために存在している。

 出色は、優れた壁塗り職人の女房が結婚後20年もたつのに、自分が愛されているのか疑問を持ってしまう。

 夫婦げんかのあげく家を出てしまう。

 周りは、冷静に見守る。

 サイドストーリーは壁塗り職人同士の曰く因縁である。

 その両方がいつの間にかやわらかに融けていく。

 嫌みのない、人間関係こそ江戸にはあったと確信しているこの作家の筆勢はとどまることはない。

 すべては元のさやに納まる。

 これが幸せなことなのであろう。

 筆者の名前も普通なら普通の江戸の庶民を描くのも仏に出来るのであろう。