月、花、風、水と自然のあるままのものを兼好は挙げている。
確かに、こうこうと輝く月には心惹かれる。
花の咲くのを見ると、その色、花弁の可憐さにうっとりする。
心地よい春風に出会うと生きていると思う。
川の流れ、それも清流だとその清冽さに見入ってしまう。
しかし、それらの自然の営みに心が慰められたことは、わたしにはない。
わたしが感じるのはいとおしいという感情だけで、わたしを慰めてくれるという感情は芽生えてこない。
わたしの心を慰めてくれるのは、人間の優しさに出会ったときである。
それはわたしに向けられた心でなくてもいいのである。
その人の肉親に対する優しさでもいいし、弱い人に対する優しさでもいい。
わたしが慰められるのは、人間の心であると思わずにはいられない。
今日はいい風が吹いている。その風を愛しているが、穏やかさをわたしに与えてはくれるが、わたしの心を慰めてはくれない。