本書は1991(平成3)年の第105回芥川賞受賞作である。

 文藝春秋社から1991年8月31日に刊行された。

 わたしはこの作家のことは1994年に刊行されたノンフィクション『もの食う人びと』で知った。ジャーナリストだと思っていたのである。

 しかし、小説家、ジャーナリスト、詩人が辺見さんにつけられた呼称であった。

 辺見さんは共同通信社の記者であったが、ご自分の能力の赴くままに文藝の世界に羽ばたいたのだろう。うらやましい。

 

 本作はノンフィクションだと、わたしは思い込んで読んだ。

 しかし10ページほど読んだところで小説だなこれはと思った。


 作者は読み手をよく知っている。

 どうすれば作中に読者を引きずり込めるか怖いぐらいわかっている。

 本作は引きずり込む場所を誰もがわかっている「駅」から始め電車内、乗り換えて地下鉄とわたしが体験したことのある社会を描く。

 主人公が行く先はアルバイト先。彼はそこで「起こし屋」のアルバイトをしている大学生である。

 彼は通信社で早朝勤務の社員を起こすためのアルバイトなのである。彼にはアルバイト仲間の個性的な同僚がいる。

 そこに、会社は自動起床装置の導入を決める。

 起こす人、起される人の関係から、起す機械と起こされる人という関係に変わってしまうのである。

 見事なテーマである。

 わたしの知らない作家が本の中にいる。どこで巡り合うのか。

 相手はわたしを拒まない。ストーカーになる必要はない。

 いい人間関係を求めて、とりあえずは辺見さんにすり寄ろう。