本書は光文社文庫から2013年5月20日に刊行された。
この作者の名前からは想像もつかない人情話から本書は成り立っている。
本書は三話からなっている。
第一話 さだめ水
第二話 おかめ晴れ
第三話 浄土傘
元武士であった浪介はそば屋に弟子入りし、いまはそば打ちの師匠の娘おぎんと世帯をもち、やぶ浪という小体のそば屋の主に納まり、昔の剣術道場の知り合いであった北町奉行との縁で十手を預かっている。
第一話はやぶ浪に客としてきた男を救う話である。男は洪水で妻と娘を失い、二人を救えなかったことを悔いている。生きる希望のない男は3度川に飛び込んだが、泳ぎが達者だったため死にきれなかった。かけそばを娘と食べたことを思い出し、かけそばを食べてから死のうと男はやぶ浪にやってきた。4度目の自害も阻止された男に北町奉行は洪水を防ぐための河川作業をするように勧める。
第二話は、捨て子を拾い、やぶ浪に助けを求めに来た浪人の話である。妻子を失った男は希望を失っていたが、この捨て子とその母親と知り合うことで、この二人のために生きようと考える。
第三話は傘職人の話である。やぶ浪の卵とじそばを好む、傘職人の父親のために同じ傘職人の息子はやぶ浪に卵とじそばを取りに来る。父親は息子が創った傘に入りながら天寿を全うする。
出過ぎない浪介がとてもいいのである。人情の基本を理解しているこの主人公はお客の気持ちを知ったうえで、そばを出す。
わたしにも昔は行きつけのそば屋とラーメン屋はあった。
なぜか、麺と言う細長い物体は人と人との縁を結ぶ霊魂があるのではなかろうか。