3か月間待った挙句の愉しみの日である。
高校時代のクラブ友達と歓談した日、11月のある酒造メーカーの倉開放日に会おうと約束していた。1週間前に11月17日の日曜日に開放日があると友人が知らせてきた。
その蔵元の副社長が高校の1年先輩なのである。
この蔵元をわたしは知らなかった。つまりこの蔵元が醸造するブランドは日本酒を愛好するわたしに届いていなかった。
この日、すごい混雑であった。試飲コーナーに並ぶ列はすごい人だかりで並び気が起こらず、蔵の中の見学をした。
見学の最後は試飲、醸造水のコーナーがあり、飲む。うまい。
近くにいた30代の頭(杜氏の下に位置する)と話す。
「うまい水だね」
「おいしい水がなければうまい酒は造れません。この水は富士山の雪解け水が流れ込んできている地下150メートルからくみ上げています」
「ところであなたは杜氏になるためにやっているのか」
「それは夢ですが、これからどうなるかはわかりません」
いい社員を育てていると思った。
「今日は副社長はいるのかな」
「あっちこち歩き回っていますので場所は特定できませんがいると思います」
「メガネはかけてる。どんな格好をしているのかな」
「メガネはかけています。たぶん青い法被を着ています」
「体型は」
「痩せていて、ほおはすっきりです」
5分後に見つけた。
「Tさん、高校のクラブの後輩のアンクルです」と、呼び掛けた。
仕込み水を継ぎ足す用事があったTさんはわたしをちらと見て通り過ぎた。
仕込み水を継ぎ足すTさんに追いすがり、わたしはなおも自己紹介を続けたが、Tさんは思い出さない。
わたしの連れも二人いて、自己紹介をするが50年ははるかかなたであった。
わたしはTさんの働き掛けでクラブに戻り、愉しい1年間を過ごすことができただけに思い出してもらいたかったが、さすが相手はお酒を運んでくれたりして気を使ってくれた。
よしとして、そのあと殿ヶ谷戸公園で紅葉を楽しみ、湯葉料理を堪能した。
50年は完全に過去になるのである。