本書は昭和63年9月25日に新潮文庫から刊行され、平成15年には40刷を記録しているから根強い藤沢ファンがいるのであろう。

 彫師伊之助を主人公にした作品はこの作品で3作目で、岡っ引きを辞めた彫師伊之助を縦横無尽に活躍させていた。

 本書は岡っ引きを辞めて、5年後の伊之助を登場させている。

 伊之助は岡っ引き稼業よりも、彫師としての人生を選び取った。

 しかし、行き倒れになっていた島帰りの長助を助け、自宅に置いておいたのが仇になり、定町廻り同心を手伝う羽目に陥る。

 長助が何者かの手にかかり、殺されてしまったのだ。

 その下手人探しを、伊之助は少ない手がかりを、一つ一つ丁寧に当たりながら、真実を解き明かしていく。

 伊之助の人間像を確かな筆致で描く、謎解きに伊之助の人間を絡ませながら、読者を藤沢ワールドにしっかり取りこんでいくのである。

 4作目の人間伊之助はもう読むことができないのが残念である。