本書は岩波文庫 緑10-6として1938年5月15日に刊行された。

 小川三四郎は年齢23歳、福岡県京都郡真崎村から東京帝国大学文科に入学するために東京に出ていく。

 名古屋で年増の女性と同宿する羽目に落ちいる。風呂には押しかけられ、ダブル布団で一緒に寝るが、なにもできない。

 女は別れ際「あなたはよっぽど度胸のない方ですね」と捨て台詞を吐かれる始末であった。

 汽車の中では広田先生と同席し、雑談する。

 日本には富士山しかないと断定する広田先生に対して三四郎は「しかしこれからは日本も段々発展するでしょう」と言うと、広田先生は「亡びるね」と切って捨てる。

 三四郎はそれでも、自分がエリートであり、学生生活に夢を持っていることを疑わない。

 母が紹介してくれた野々宮宗八に挨拶に行ったり、大学の池で団扇をかざす里見美禰子と遭遇したり、佐々木与次郎と知り合ったりと東京暮らしに活気が出てくる。

 広田先生の書生を自認する与次郎のおかげで、広田先生の引越しの手伝いに行った折、美禰子と話す仲になる。

 恋愛小説、三四郎の始まりである。

 三四郎は度胸がないため、美禰子に言い寄ることもできないし、美禰子は美禰子で本心は決して表に出さない。

 美禰子は野々宮が好きなのだが、学問馬鹿の野々宮はまるで女性の気持ちを理解しようとはしない。

 美禰子は三四郎を誘惑して、野々宮を振り向かせようとしたのであろう。

 美禰子は三四郎に「迷子の英訳を知ってらして」と聞き、教える。

 「ストレイ・シープ」

 美禰子は大きな迷子である野々宮と広田先生を責任を逃れたがる人と言っているが、実は美禰子も三四郎も人生の迷子なのであろう。

 三四郎は会えば会うほど美禰子を好きになる。度胸のない三四郎でも、「あなたに会いたいから会いに来た」と言えるほどになるが、時すでに遅く、美禰子は結婚を決めてしまう。

 熊本の高校を卒業して上京した三四郎が都会で初めて挫折したことが恋愛であったのは、よかったのか悪かったのか。

 近くて遠いは男女の仲とはうまい言葉である。

 「男と女はお互い分からないから魅力がある。そこで恋愛、失恋、結婚、離婚、不倫、殺人が起こる」

 

 『三四郎』に登場する、文学者、芸術家、哲学者は、

 正岡子規、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラスキン、スコット、アフラ・ベーン、ヘーゲル、イプセン、ニーチェ、クールベ、モロー、シャヴァンヌ、歌麿、西川祐信、ラファエロ

 であった。

 美禰子のことについて話がでてくるとイプセンがよく引用されていた。

 新しい女は漱石の中にいつもいた。

 『明暗』が絶筆になったのは漱石は無念であったであろう。