2013年の出版界の期待と話題を一心に集めて本書は2013年4月15日に刊行された。わたしが手にできたのは4月25日の第5刷発行分である。いまのところ書店にはこの5刷が平積みされている。
村上春樹さんの名作『ノルウェイの森』が発行されたのは1987年9月だった。このときも初版発行の2か月後に読んだ。上下巻の2巻目の最後を読んでいたのは出社の朝だった。会社のある駅に到着する手前で読了した。
本書の後半部を読んでいた時、『ノルウェイの森』の後半部で涙が止まらず、困ってしまったことを思い出してしまった。
本書の最後は巡礼の最後にフィンランドに住む黒(黒埜恵理 女性)に会う状況が描かれていた。しきりに涙が出てきてしまった。
異性間にある人間の優しさ愛おしさを書き込むことで涙を引き出すのが村上春樹の作品であるとわたしは思っている。
村上の異性間関係は、哀しく美しく優しいのである。
本書は多崎つくるの高校時代の親友関係の喪失とその自己回復への物語である。
名古屋の公立高校で男3人と女2人はボランティア活動を通して五角形のピッタリ収まる関係を育む。
男2人赤(赤松慶)と青(青海悦夫)と女2人白(白根柚木)と黒は愛知県の大学に進学する。4人には色彩があり、多崎の姓にだけ色がなかったのである。多崎つくるだけは東京の工科大学の建築科に進学する。この関係が彼らが大学2年生の時に壊れる。
多崎は他の4人から絶交を告げられる。理由は告げられなかった。
その直後から多崎は数か月間食欲を無くし精神を病む。
それでも多崎は水泳で知り合った灰田文紹と親しくなるなど、大学生活を続ける。
いま多崎は36歳になり、大好きな駅づくりの仕事をしており、鉄道会社の施設部建築課課長代理を務めている。38歳のキャリアウーマン木元沙羅と知り合い付き合いを始めている。
その彼女から多崎は心の中に閉じ込めた高校時代の喪失を解明しない限り、人間を心底愛することはできないと指摘される。
多崎は、赤、青に会い自分の排除の原因を知る。白根が多崎に強姦されたと言ったことが原因であった。
そのことは多崎からすれば濡れ衣であり、なぜ、白根が多崎に強姦されたなどと言ったのか赤も青を答えることができなかった。
多崎は女同士であれば、詳しく知っているのではないかと、フィンランドに住む、黒埜を訊ねる。黒埜は愛知県に陶芸修行に来ていたフィンランド男性と結婚し、娘2人を生んで生活している。
黒埜と会った多崎は白根が多崎から強姦されたと言った後の話を聞くことができた。
高校時代は男女を強く意識する。5人はその関係を維持するために男女関係は封印していた。
黒埜は多崎が色彩を持たず、何の個性を持たないと思っていることの考え違いを指摘し、自信を持つようにと励ます。そして、木元沙羅との関係をきちんと作り上げるようにとアドバイスする。
多崎と木元、多崎と赤松、青海、黒埜の関係がどうなるかわからない。大学時代の友人灰田は突然いなくなるがどうなっているのか。
人生とは出会いと別れの繰り返しである。そこに喜び、悲しみが生まれる。
少なくとも数百万の日本人が、この本を読んだわけで数百万の感想が生まれたわけであろう。