本書は2013年4月10日に世界思想社から刊行された大著である。
総397ページ、索引7ページ。
漱石の作品を渡邊澄子さんが読んだ、その思いを見事に描き切ったと言える著作物である。
先だって、夏目漱石の美術世界展を観に行ったときに、女性が多かったことに意外感を抱いた。
渡邊さんはすごい漱石の読み手である。
本書はジェンダーで漱石の作品を読むことをテーマとしている。
新しい漱石の読み方である。
漱石作品を美術の視点でとらえようとしたのが美術世界展であり、ジェンダー読もうとする視点も初めての試みであろう。
夏目漱石は生活のためのお金は必要としたが、博士になったり、東京帝国大学教授になることよりも、自分の作品が100年後に読まれることを強く志した作家である。
その志を美術展の企画者も渡邊さんもしっかり受け止めている、とわたしは思った。手を変え品を変えたわけではないが、漱石の作品には時代を超越した人間が描かれており、研究者は常に発見ができるのであろう。
渡邊さんは、ジェンダーを切り口にして漱石と漱石文学に迫りたいと考え、本書を著わしたのである。
ジェンダーとは「社会的・文化的に形成された性別」のことであり、生物学的な性を表すセックスとは区別される。
さらに筆者は「文学をジェンダーで読むということはその作品にどれだけジェンダー・バイヤスがかかっているのか読み解くことである」と解説してくれている。
筆者は、まず漱石を文学史上で最初にジェンダー・バイヤスをはぎとり、男女平等の暖かい血が流れた平和な人間関係を目指した文学者であると見た。
そのうえで、漱石文学で重要な作品は『それから』『行人』『道草』『明暗』であると考えている。
そして、目次構成を以下のように組んだ。
『吾輩は猫である』 女の問題を中心として
『虞美人草』 糸子は序列最下位の女性か
『三四郎』論 美禰子像を視座として
『それから』論 代助という人
『門』論 宗助と御米・「幸福」な夫婦
『彼岸過迄』論 須永と千代子
『行人』論 お直を視座として
『こゝろ』論 「先生」という人
『道草』論
『明暗』論
解説はくどいところがあるものの歯切れよく、漱石の作品の人物像がここまで言われないとだめかというぐらい徹底的に暴かれる。
筆者は作品をジェンダー・バイヤスの強弱で測りながら漱石が徐々にジェンダー・バイヤスを乗り越えようと苦闘する様子を書き込んでいる。
本書はジェンダーを切り口として、漱石文学に新しい視点を設定した。新しい読み方を読者に提示したわけだ。
この筆者の試みが新しい読者を増やすことにつながるであろう。
漱石文学の真骨頂は、男と女、愛にある。このテーマこそ時代を超え、永遠に人間に訴えかけるものである。
漱石文学は永遠であると思っているのはわたしだけではないと思っている。