本書は角川文庫から平成18年2月5日に改版5版として発行された。
『こゝろ』の初版は大正3(1914)年、岩波書店から発行されたようだ。
最初に読んだ『虞美人草』は藤尾が死んだ。たぶん自殺であろう。
二作目の本書は「先生の遺言」あるように、また自殺である。
藤尾は自らのプライドのために死を選び、先生は明治天皇への殉死を選択した乃木希典氏の行動に促されて、明治で負った罪をあがなうために死での旅に出る。
本書も先生は謎の人である。
謎のひとつは、だれも連れずに行く毎月の墓参りである。
先生は気に入った下宿に、中学高校の親友Kを同居させ、共に大学に通う。
先生はそのころ、下宿の娘との結婚を考え始めていた。
しかし、先生はその娘とKとの仲の良さに危惧を覚え、最終的には二人の留守中に、娘の母親に結婚の承諾をとってしまう。
その晩にKは自殺してしまうのである。
先生は、父母亡き後、叔父さんに財産を取られるなどの仕打ちに会い、人間不信に陥っていたが、先生自身、Kを死に追いやり、叔父と全く同じ生き方しかしてこなかったわけだ。
漱石の頭の中には、どんな場面にも人間の勝敗しかない。
わたしは、小説家とは人間の勝敗にのみこだわるのか聞きたい。
いやあ、本書は成功したとは言えない。