本書はワイド版岩波文庫283として2007年4月17日に第1刷が刊行された。

文字が大きいし、シルバー向きの本であった。

この作品は、職業作家として朝日新聞社に入社した漱石の第一作目である。

諦念の人、甲野欣吾、道義の人、宗近一、欣吾の妹の新しい女、甲野藤尾、秀才の小野清三、愛する相手であれば尽くす女である一の妹、糸子、謎の女、欣吾と藤尾の母といったところがこの話の作り手である。

話しは欣吾と一が比叡山に登るところから始まる。

2人は親友である。

諦念の人と道義の人では、話はかみ合わない。

それでも、面白い会話が延々と続く。

場面変わって、東京の甲野邸。藤尾の詩心を満足させる相手に選ばれた小野が話をしている。藤尾が攻撃し小野は守り一辺倒である。藤尾は小野を愛し、小野も藤尾を愛している。

京都に滞在している欣吾と一は、旅館の隣の家に住む言を弾く女性、小夜子に興味を持つ。

嵐山でも出会い、東京に帰る欣吾と一の汽車に小夜子も乗り合わせる。

小説は作者の作ったレールに乗っかってしまうものだ。

実は小野さんの恩師、漢学者井上孤堂は、孤児となった小野さんを世話し学費を援助した人間で、小夜子は娘なのである。老境に入った孤堂は、娘を託せる相手は小野しかいないと思っており、その問題の決着をつけるために上京し、転居するのである。

結局、道義の人、宗近の行動で、小野と小夜子は結婚の約束をし、欣吾と糸子も結婚をするであろう。

父親同士で結婚することを決められていた一と藤尾は、藤尾の死で終わってしまう。


わたしは本書を読みたくなったのは、北枕の藤尾を、

「逆に立てたのは二枚折の銀屏風である。中略。色は赤に描いた。紫に描いた。凡てが銀の中から生える。銀の中に咲く。落つるも銀の中と思わせるほどに描いた。ー花は虞美人草である。落款は抱一である。」

荒井経さんが上記の文章から推定試作をされた絵を観て、感動し、藤尾の死に思いを巡らせたかった。

漱石の女性観は、たぶん、徐々に変質を遂げ、『門』『明暗』で新しい女性像を求めていたのではなかったのか。

ますます、漱石を読み進めなければならない。