新装版と銘打った本書は2006年1月15日に講談社文庫から発行された。

 収録されたのは、宮本武蔵、御子神典膳、柳生但馬守宗矩、師岡一羽斎、愛洲移香斎の5人の剣士である。

 御子神典膳以外は老境に入ってからの物語である。

 宮本武蔵では、自分の剣名を上げようと挑んできた若者をだまし討ちする話。

 柳生但馬守では、但馬守に遺恨を持つ武士と立ち合うが、相手の油断につけこみ討ち果たす話。

 師岡一羽斎に至っては動けるが、目に病を持ち、2人の弟子に世話を受ける状態になり、そのまま死んでしまうという話。題名で剣客と言っているので、この話はその弟子が剣をふるうことになる。

 愛洲移香斎の話が一番よかった。移香斎との試合で負け、すっかりダメになってしまった父を持った若者が、その時の様子を話してくれた母親の言葉を信じて、挑戦を志す。最後に移香斎と立ち合い、負けるが、移香斎から父親との立ち合いの動機、立ち合いの様子を聞き、真実を知る。そして、教授しようと申し入れてくれた移香斎の言葉を断り、生まれ故郷に残してきた娘のもとに帰る。


 剣名の高い人間は、その高さを維持すること、過去の立ち合いでもたらしたもので苦しむ。老境になれば、体は思うように動かず、自分を苦しめる。

 藤沢さんは著名な剣士を描くよりも、無名の藩の片隅で生きる剣の達人とか、市井の人々を描く。

 愛洲移香斎で描いた若者の生き方こそ、藤沢さんが我々に残したかったのではないかと思う作品であった。