小林千草さんが東海教育研究所、東海大学出版会から2012年12月14日に発行した面白い本である。

夏目漱石の最晩年で未完に終わった『明暗』の夫婦の会話、夫婦いずれかと他者との会話を素材にして、会話当時の夫婦の心理状態に迫ろうとした野心作である。

 筆者は「漱石『明暗』は「未完」でありながら、私には、「完」に思えるのです。もはや清子の心が津田に戻ることはありません。中略 作品の“峠”を描ききれば、あとは、自然に理解されうる。そう信じ念じて、漱石は百八十八まで書ききったと思います」と、あとがきで述べている。

 会話や地の文に伏線があると、筆者はしばしばことわって、夫婦の言語力学を書き進めてきた。


 津田と妻の延子は夫婦としてやっていけるのか、相互不信を増幅させてきた会話の先にあるのは、仮面の夫婦の姿しか私には考えられなかった。


 しかし、この作品の斬新さと切り方には、最初述べたとおり面白さが絶えることなく立ち込めていた。