手元に2冊の本がある。
藤沢周平『無用の隠密』未刊行初期短編(文集文庫、2009年9月10日発行)。
収載作品(15編)
暗闘風の陣、如月伊十郎、木地師宗吉、霧の壁、老彫刻師の
死、木曽の旅人、残照十五里ヶ原、忍者失格、空蝉の女、佐賀
屋喜七、浮世絵師、待っている、上意討、ひでこ節、無用の隠密
藤沢周平さんは、とても好きな作家である。
武士を描いても、町人を描いても、その時代に健気に生きた人間の生活、感情を描ききって、読むわたしを泣かせてくれる。
上にあげた作品は、1971年に『溟い海』でオール読物新人賞、1972年に『暗殺の年輪』で直木賞を受賞し、作家としてデビューする以前に書かれたものである。
短編でありながら、どの作品も藤沢ワールドの骨子を内在し見事な読み物に仕上がっている。
どの作品にも男と女が息づいている。
たぶん、藤沢さんは制約のある戦国時代、江戸時代においても愛を貫き通して生きる人間がいることを信じ、確信していたのであろう。
小川国夫『俺たちが十九の時』小川国夫初期作品集(新潮社、2012年10月30日発行)
収載作品
おろかな回想、霜と虹、俺たちが十九の時、少年(四つの掌編)、
サン・ユニア公国、叔母・甥、暖冬異変、永遠の人
小川国夫さんは、『アポロンの島』しか読んでいない。ただ、藤枝東高校で小川さんと同級生であった方をわたしは知っていたので、なんとなく気になる作家であった。
『俺たちが十九の時』は、わたしも19歳のときがあったのだから読めると思って購入してきた。
小川国夫さんは古井由吉、黒井千次、後藤明生らとともに内向の世代と呼ばれる文学者である。
その文学世界は独特な文体、内容が難解である。
わたしの心には敬して遠ざけるの気持ちがある。
『俺たちが十九の時』は、友人、渡辺の自殺を巡る短編である。
「俺は自殺だって出来るよ」と渡辺が言ったことばが主人公の柚木を不安にさせる。
わたしは19歳のとき、自殺といったことばを言ったこともないし、考えたこともない。
小川さんの時代は太平洋戦争のころ。予科練に行けと言われたり、死と向き合わざるを得ない時代が小川さんに死を考えさせたのだろうと思うが、自死をなぜテーマにしたのかはわからなかった。
サン・ユニア公国、永遠の人にアポロンの島の習作に違いないと思った。
初期であっても、文学者として大成した人の作品には、テーマを深め、人間を見つめるというすごい力の片りんをうかがえた。