NHKの『路線バスの旅』を見ていた。

  突然、会社を辞めて、山陰旅行をした時のことがよみがえった。

  大阪を旅立ち、山口を一泊目と考えていた。

  二泊目は津和野である。

  山口には夕暮れが覆う時間についた。

  自分は失業している平日であるから、泊まるところは簡単に見つか   

 ると、高をくくっていた。

  駅前の旅行案内所で宿屋探しを頼んだが、空いてないという。

  医者の学会があり、山口市内のホテル、旅館はどこも満室だとい

 う。

  わたしは、26歳のときまでに野宿はしたことがない。

  困った。案内所からは見離され、自力で探す羽目になった。

  電話帳を手元に電話をしまくった。

  何軒目かは忘れたが、相部屋ならばあるというところに電話がつな  

 がった。

  何でもよかったので、お願いし、その旅館にたどり着いた。

  受付に行き、電話で予約したというと、優しそうな受付の初老の女

 性が、

  「うちは、商人宿なんですよ」

  と、説明してくれた。

  相部屋のお二人は優しかった。

  当時は、そういう人たちと話すすべを心得ていなかった。

  いまは、危うく野宿するところを救ってくれた、優しげに佇んでいた 

 商人宿が懐かしい。


  その後、10泊して山陰を回ったが、宿泊を決めていた駅についた

 ら、即、宿探しをした。

  おいしいものを食べ、いい宿に泊まれた。

  なかでも、商人宿がまだあってほしいと思う。