アンクルのブログ


 河出書房新社から2012年7月30日に発行された平川祐広(すけひろ)さんの力作である。

 夏目漱石論は、漱石の作品、その人生から語られることが多いが、平川さんは外からの視点、つまり外国人との関係を追加して漱石の人間、作品に迫ろうとしている。

 基本は比較することにより、深く漱石に迫る。

 漱石が、先生と考えていた人は正岡子規だと思うが、平川さんはマードック先生も漱石に深い影響を与えていると論証している。



 西洋からの借金の項で、まず、平川さんは、ジェームズ・マードックの『マードック先生の日本歴史』から一文を引用する。

 「今の吾等は」刻々に押し流されて、瞬時も一所に彽徊して、吾等が歩んできた道を顧みる暇を有たない。吾等の過去は存在せざる過去の如くに、未来の為に蹂躙せられつつある。」


 それに対して、和歌山で講演した漱石の『現代日本の開化』の一文を比較のためにあげている。

 「西洋の開化は内発的であって、日本の現代の開化は外発的である。中略 今迄内発的に展開して来たのが、急に自己本位の能力を失って外から無理押しに押されて否応なしに其云う通りにしなければ立ち行かないという有様になったのであります。」(平川さんの引用を一部変えてある)


 つまり、江戸時代までの文明を過去のことだと捨て去り、西洋の文明に価値を置いてその文明に振り回されて、右往左往せざるを得ない日本を憂いているのである。


 西洋に追いつけ追い越せと、戦争に突っ走ったことは忘れ去られようとしている。

 グローバリゼーションにも乗り遅れまいとし、

 TPPにも、わが国の存在価値を踏まえないで、経済価値にのみ重きを置いて参加しようとしている。


 漱石は「滅びる」と言った。

 外国人が考える価値を金科玉条のごとくに信奉して追いかける。

 

 漱石の文明観こそ小中高等教育に取り入れてもらいたいと思うが、明治はあまりにも遠くになり過ぎた。


 平川さんは外からとしてニーチェ、内からとして森鴎外を挙げている。