待ち伏せていたその痛みのような感覚が、平板な道の上に電柱の陰から現れ、バットで殴りかかって来るようだった。水入れに淡く広がる絵の具のような心模様、そのまだらな色を眺めていると目の前の誰かの首へと手が伸びていく。
 その人は「苦しい」と言ったが、僕はなかなか手を離さないでいた。

 事後、少し外れてしまった心の軸を元に戻そうと街を歩いてみた。きっとその間に決定されたのだろう、自分は街に居てはいけない存在へと変化していた。
 灰色から赤色へ、夜の雲は脱皮を遂げたようだった。
 そうして車に乗せられてから数時間が経つ。この白いワゴンは、もうかなりの距離を進んできている。無数の名も知らぬ空気の中を通り抜け、見慣れない街並みを駆けていく。
 時折り風が鳴っている。これはそれらを切り裂いている音だ。
 考えてみれば、車というものは強い。ボディを切られることもなく、雨によって憂鬱になることもない。簡単には痛まない。けれども人というのは、そうはいかない造りでできている。
 機械でないなま物の僕たちは、どうということもないつまらない原因で容易く壊れてしまう。中には僕のような特別もろい人間だっている。
 窓の外を流れていく物干し竿に干された派手なTシャツ。この辺りの学生のものなのだろうか、僕とは何の関係も持たないそんな物体が、何の関わりもなく過ぎていく。
 今、黙って車に乗り続ける自分は、独り退屈に似た心境で、そのようなことを考える。