金曜日の昼間。
「はぁはぁ。ただいまー!ついに、やってしましたよー!」
学校に汗をかきかき入ってきたのは、
ポッコリのお腹の同僚、チャーリー(※日本人 仮名 チャーリーブラウンのように穏やかだから)。
男。28歳。
ピーナッツ顔で大きな口で笑う彼はとても愛らしい。
出国生のための市民会館を借りての出国クラスが終わって帰ってきたのだ。
「あら、おかえりなさい。どうしたんですか。」
「いやー、わたし、つ・い・に、おこっちゃいましたー!」
大きなカバンを椅子の上に置き、がはははと豪快に笑う。
「ええーーー!!笑顔のチャーリーさん(※日本人)が、怒ったーーーー!?一体何があったんですかーー!?」
「いやー。そろそろちゃんとしからなきゃなぁって思っていたんだけど、今日はタイミングがよかったもんで…」
もじもじしながら彼は語り始めた。
出国クラスでは出国寸前の学生を集め、ベトナムと日本の習慣の違いを簡単に教えるクラスである。
今月の学生の数は30人くらい。
気分はもう、修学旅行の前のように、うきうき、わくわくしていて、
隣の学生と話したり、携帯電話をいじったり、
まったく、先生の話に集中していない学生が多い。(気持ちはわかるけどね。)
しかも、今回の担当の先生はいつもニコニコの優しい先生。
チャーリー先生によると、
出国クラス2日目、みんな時間を守らず、だらだらと遅刻をして入ってきた。
そして、昨日出した宿題をだれ一人としてやってこなかった。
それは、自分の行く学校の住所を確認して、書くというものだった。
「じゃあ、今、やってください」とチャーリー。
だれも手を付けない。みんなへらへらしていた。
そこへ、普段からお調子者のTがだいぶ遅れて教室に入ってきた。
「Tさん遅いですね。」学生に近づくチャーリー。
「先生、すいません。ちょっと用事がありまして…」うそだというのは分かっている。
「そうですか、宿題はやってきましたか?」
「いいえ~」
「じゃあ、今やってください」
「先生、紙を忘れました」とにこにこ。
「じゃあ、ノートに書いてください。Tさんはどこの日本語学校へ行くんですか?住所は?」
「住所?ん~。わかりませ~ん」
ぶっちん。
「お前ら、ふざけんなよーーーーー!!!!!」
プラスチック製の椅子を壁に向かって蹴っ飛ばした。
「きゃぁ!!」女子の悲鳴が聞こえ、何人か飛び上がった。
クラスは一瞬にして静かになった。
「なんで、やることやってねーんだよ!!!!
てめーの行く場所もわかんねーで、どーすんだよ!!!!
これで、本当に日本へ行くつもりか?いい加減にしろっ!!!!」
先生の凶変に学生達はあわてて、鞄の中から宿題をだし、やり始めたということだ。
「いやぁ、みんなの態度が悪くて、今日は叱ろうと思ってて…。」
チャーリーは朝からド派手なアクションで学生を驚かせようと計画しており、
こっそりと自分の近くにプラスチック製の椅子を置いて機会を待っていようだ。
「お~」私たちは声をもらした。
「学生の態度も悪いけど、さすがのチャーリーさんも、堪忍の緒がきれたってわけですね」
「ん~。よく考えると、自分が高校生の時、いい先生ってよく叱ってくれたなぁって思って。叱らない先生は自分に無関心っていうか…。
いや、でも、実は、反省しているんです。普段怒ったことがないから、上手に叱れなくて…。それに…。」
右足を差し出した。
「サンダルだったことをすっかり忘れちゃってて…。」
「お~!」私たちはもう一度声をあげた。
チャーリーの足の甲は皮がめくれてて、青く腫れていた。
ベトナム人の先生も覗きにきて、みんなで笑った。
チャーリー先生も照れながら笑った。
やっぱり、優しんだな、チャーリー先生。