朝7時20分。
石の階段をかけ下りる。出勤時間だ。
2重に閉めてある玄関のドアを開け、家の中から自転車出した。
Yシャツに制服の緑のジャンバーを羽織る。
門に鍵をかけ、自転車をこぎ出す。
1月だというのに、 暖かい日差しが、起きたばかりの体をほぐす。
シャンバーのポケットに手を入れると、朝ご飯用ににぎったおにぎりが温かい。
味付けは「のりたま」だ。
学校まで約10分。
交差点でバイク達とタイミングを取るのにも慣れた。
やる気満々で走るバスのとなりを走るのにももう慣れた。
もくもくと吐き出す排気ガスに息を止め、目を細くする。
歩道では鶏が穴を掘っている。
たくさんの木製の鳥かごや、
大量のフランスパンを売っている店、
自転車バイクで二人乗り、三列走行している高校生を追い抜かす。
私の目の前に、かごにぎゅうぎゅうにつめられたアヒル達が現れた。
バイクにゆられ去っていく。
次に鶏ががつめられたバイクがやってきた。
みんな市場へいくのだろう。
次に、茶色い犬がつめられたバイクがやってきた。
重なり合い、入りきらないのか手が檻から出ている。
無性に悲しくなる。
これは、ペットではない。家畜なのだ。
そう思おうとするが、去年亡くなった、うちの犬のことを思いだした。
犬。犬肉。
ベトナム人の友人によると、1940年ごろ、ベトナムは極度の食糧難に陥っていたそうだ。
家一軒が、一週間分の食料と交換されていたとか。
それなら、食べるわ!なんでも食べるわ! と言い聞かした。
左手を伸ばし、後方に曲がる合図をだす。
向かい側の道路から車が走ってきた。
ヘッドライトをカチカチっとされる。
意味は、『俺が通るから、お前は止まれ。』だ。
土埃で汚れた車が私の髪をなびかした。
そういえば、もう肩までのびたなぁ。
自転車を歩道に乗せ、学校の前で止まる。
「せんせー!おはようございまーす!」学生が挨拶をしてきた。
くすくす笑いながら、屈託のない笑顔で。
今日もまた一日が始まる。