ロイさんが車に戻ってきた。
罰金することなく、
無事に進むことができた。
2時間後。フランス病院に到着。
強い日差しを避け、急ぎ足でヒエンさんと受付へかけこんだ。
受付では、フランス人と思われるお客さんとベトナム人スタッフがフランス語で話している。
「お待たせしました。」
花柄のワンピースにヒールを履いたベトナム人のスタッフがやって来た。
彼女は日本人担当だ。
「あの、もう午前は予約がいっぱいで、次は12時30か16時30になります。」と彼女。
「私たちハイヅンから来たんですよ。」
現在の時計を見る。10時10分だ。
「すみません。5人待っていますから。」
突然来たのだから、仕方が無い。
12時30を予約して、待合席で待つことになった。
2階へ上がっていく。
廊下にはベンチがいくつも用意されていた。
そこに、足にギプスをしているフランス人のマダムがいた。バイク事故にでもあったのだろうか。
英語を流暢に話していた。
病院内はWi-Fiがあったので、ヒエンさんはインターネットをしていた。
私は頬に濡れたタオルを当てている。
冷やすといくぶんか気持ちがいい。
「ヒロスエ バーキン」
名前を呼ばれた。12時だ。予約時間より30分も早い。
ヒエンさんが通訳として一緒に診察室に入ってくれた。
診察器具が並ぶ棚には何故なのかアルコールランプが赤々と燃えていた。
「こちらへどうぞ。」
ベトナム人40歳くらいのおじちゃん先生だ。私の書類に目を通したり、パソコンで何かを印刷したり、慌ただしい感じだ。
「どうしたんですか?」書類を見ながら尋ねた。
「3日前から、喉と口の中が痛いんです。」とヒエンさんが通訳する。
「咳や鼻水は?」
「ありません。」
「熱は?」
「ありません。」
「では、診てみましょう。」
ホチキスで書類を止め、ガシャンっと机にほうり投げると、ようやく、私と目を合わせた。
「はい。口を開けて。」
口を開ける。
「もっと!もっと!」
「いたぁい。いたぁい!」
せいいっぱい開けているつもりだったが、全然開いてないみたいだ。
「バーキン、もっと開けて!」
ヒエンさんまで、わたしの隣にまで来て言った。
だが、左ほほに器具があたるとするどい痛みを感じるし、顎がこれ以上あかない。
なんなんだこの痛みは。
大きな口内炎でもあるのか。
「あ~。なるほど。」
医者がヒエンさんになにやら話す。
「どうでしたか?」
はぁはぁと、私が尋ねる。
「歯です。」ヒエンさんが真面目な顔をして答えた。
「ん?なに?歯っ?もしかして、…虫歯?」
「いえ、虫歯じゃなくて、歯が生えてきたんです。でも、真っ直ぐ生えなかったから、ほほにあたって…。」
なんと。。。
この痛みは歯だった。
またの名を親知らずともいう。
まさかの、
予想外の結果に、私は呆然とした。
感じたことのない痛みは、この歯なのか。
それなら、頭が痛いのも、耳がいたいのも合点がいく。
そうだったのか。
「…喉は?」
「少し赤いだけです。良かったですね。原因が分かって。」
にっこりとヒエンさん。
「それじゃぁ、歯医者に行ってくださいね。」と医者は書類に判子を押し、ヒエンさんに手渡した。
この病院は歯医者も入っている。
一階の階段を降りると、左手にすぐ歯医者がある。
そして、4つの親知らずを見せられた。
今は左上が痛いが、今度は右上が痛くなる。それから下の歯も。
下の歯は根っこがフック状に曲がっているため、非常に抜きにくいらしい。取るなら、根っこはそのまま残すと言われた。
半分だけ残すって大丈夫なのかな?
不安に思った私は、日本の歯医者さんに相談してみようと思った。
今回は、抜かないことにする。
問題は上の歯だ。
今すぐにでも抜きたいが、ほほに傷がつきすぎており、施術できないそうだ。
抜歯施術は4日後に決行。
来週の火曜日だ。
薬で、ほほの内部を治してから、
抜くことになった。
なんたるちーあ。
そういえば、ベトナムにきてから、私は生えたり、伸びたりすることが多い。
のびのび過ごしているからなのか、
身長が2cm伸びた。
現在、164cmだ。
道路は粉塵が多いので、目を守るためまつ毛が伸びた。
もちろん、鼻毛もよく伸びる。
そして、今回、歯もニョキニョキ生えてきた。
この調子で、
技術も、感性も、魂も向上していけたらなぁ。
と、ハイヅンへの帰り道にしみじみと思った。
この後、インターネットで「親知らず 抜歯」を検索して、身震いすることを、この時のバーキンはまだ知らないのであった。。。