昔は自殺が違法とされていた時代もありました。現在の刑法ではそのような規定はありませ

ん。しかし、「自殺関与及び同意殺人」に関する規定(刑法第202条)はあります。保護法益と

しての人の生命は、自分で処分する限りでは違法性がないものの、他人の生命処分に関与し

たり(教唆・幇助)、嘱託・承諾に基づいてその人を殺したりする行為まで違法性がないわけで

はないという事です。人間、この世に生まれようとして生まれたのか。望まれずにたまたま生ま

れてきただけなのか。考え方はいろいろあるかもしれません。しかし、一度、人間として生まれ

生きている限り、その人には憲法上の人権があり、民法上の権利主体たりえ、刑法上では保

護法益の対象とされているわけですから、単に、全てが自分自身の自由に処分できるという

わけでないのはもとより、社会的にも責任をともなうものと考えます。民法上の「遺言書」は主

として財産処分を規定したものではありますが、自己財産と言えども全てを財産処分の自由と

はせずに、遺留分制度等をもうけて、被相続人の権利を制限し、相続人を保護しています。

人の命は儚いものですが、生きているないし生かされている限り、無碍にもできないものと思

います。せっかく生まれて生かされている命、何か意味のあるものと思いもう少し大切にでき

ないものでしょうか。生きたくとも生きていく事ができなかった人もいる事を考える時、決して、

自分の命だから自分でどうしようと勝手というわけでもないのではないでしょうか。