iPhone凋落? スマホ料金是正から見る人気端末の行方 | 飯島 愛ちんのガッタス・オスピタル

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昨年実施された総務省のタスクフォースの結果を受け、携帯電話大手3社が実質0円以下での端末販売を見合わせたことから、2月に入ってスマートフォンなどの端末価格が急上昇している。そこで注目されるのが、端末価格の変化がメーカーにどのような影響を与えるのかということ。事実上iPhone一択の状態であった日本のスマートフォン市場が、大きく変化するのだろうか。

総務省要請で「実質0円」が姿を消す

昨年総務省が実施した「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果から、総務省は携帯電話大手3社に、携帯電話の料金引き下げに関する要請を実施した。それを受けて各キャリアは、今年に入ってから要請に応えるための施策を打ち出している。

中でも注目されるのが、端末販売の適正化に向けた動きである。これは一体何かというと、要するに携帯電話端末を、実質0円を割り込む価格で販売しないようにということである。

実はここ数年来、番号ポータビリティ(MNP)で乗り換えをするユーザーに対し、iPhoneのような高額な端末を、販売奨励金や割引などを用いて実質0円で販売するだけでなく、それを超える割引や、5万円、10万円といった高額なキャッシュバックを追加して販売する手法が横行。一部メディアで“現代の錬金術”として取りざたされたように、MNPでキャリアを乗り換えながらスマートフォンを買い替え続けることで、お金がもらえてしまうような状況が続いていたのだ。

そして高額な割引の原資となっているのは、利用者が毎月支払っている携帯電話料金である。それゆえ、MNPを活用し端末を頻繁に買い替える人は高額な割引を受けて得をするが、あまり買い替えない人は割引の恩恵をまったく受けられず、損をしてしまう。そうした不公平さが問題だとして、先のタスクフォースでは是正に向けた議論が進められていたわけだ。

総務省からの要請を受けたキャリアは、今年に入ってから要請に応えるための取り組みを進めてきた。端末販売の適正化に関しても同様で、1月29日にはNTTドコモ代表取締役社長の加藤薫氏が、決算説明会の場で「2月より、端末を実質0円で販売することは慎んでいきたい」と話し、2月から実質0円以下での端末販売は取りやめることを明らかにしている。

他のキャリアも同様に、2月より端末を実質0円以下で販売しないよう取り組みを進めているようで、2月に入ってからは携帯電話ショップの店頭から、実質0円やキャッシュバックなどの施策が姿を消している。

NTTドコモの加藤薫社長は、決算会見の場で2月より実質0円での販売を慎むと公言


商習慣の変化で大きな影響を受ける端末メーカー

これまで"常識"となっていた端末の0円販売が姿を消したことは、携帯電話に関連するさまざまな企業に影響を与えている。実際、2月9日に実施されたKDDI決算発表会で、同社の代表取締役社長である田中孝司氏は、2月に入ってからauショップへの来店者数が約2割減少するなど、来客数が大幅に落ち込んでいることを明らかにしている。

KDDIの田中孝司社長は、2月9日の決算説明会で好調な業績を記録したものの、実質0円販売の取りやめでショップの来客数が急減したことを懸念していた

だが実質0円販売がなくなることで影響を受けるのは、携帯電話ショップだけではない。同様に大きな影響を受けると見られているのが、端末メーカーだ。

これまでキャリアは、メーカーから調達した端末を、"2年縛り"を前提に多額の割引や販売奨励金をかけ、0円など非常に安価な価格で販売してきた。この仕組みによってキャリアは長期契約を獲得でき、一方でメーカーはキャリアの割引販売によって安定的な販売数を確保し、高性能な商品の開発に専念できるなど、Win-Winの関係を築いていたのである。

だがその割引が減少するとなると、必然的に価格が上昇するため、ユーザーがそのことを敬遠して端末の販売量が減少する。そうなると、キャリアがメーカーから調達する端末の数自体を減らしたり、より安価に販売できる低価格端末を求めたりするようになることから、メーカーの売り上げが減少して打撃を受ける可能性が高まるわけだ。

特に今回の総務省要請が大きなダメージを与えると見られているのは、高額なハイエンドモデルを提供してきたメーカーであろう。例えば、最も人気の高いiPhoneシリーズは、本来8万円以上する非常に高額な端末である。それをキャリアが価格を大幅に値引くことで、我々はタダ同然で購入できていた。だが極端な割引ができなくなると、必然的に端末の価格は正規の価格に近づいていくため、高い機種ほど高額で販売されることとなる。

そうしたことから、高額な端末を提供しているメーカーほど、今回の総務省要請によって大きな影響を受けると見られているのだ。

"iPhoneびいき"は継続、ハイエンドAndroid端末が姿を消す?

だが、販売奨励金や割引自体が禁止されているわけでもなければ、割引できる額に制限が加えられているわけでもない。確かに実質0円での販売は難しくなるものの、どの端末をどの程度割り引くかは、キャリアの裁量で決めることができることに変わりはないのだ。

実質0円を割り込む価格での販売も多く見られたiPhoneだが、本来は8万円を超える非常に高額なスマートフォンだ

そうしたことからキャリアは、日本で最も人気が高いiPhoneを提供するアップルとの関係を維持したいことから、iPhoneへの割引優遇施策は今後も継続するものと考えられる。他社のハイエンドモデルと比べれば、iPhoneが割安な価格で販売される傾向は、まだ続く可能性が高い。

先のタスクフォースの議論では、キャリアがiPhoneをとりわけ優遇して割引販売している“iPhoneびいき”を問題視する声も多く上がっており、それを改善するべきとの意見も少なからず出ていた。だが今回の要請の範囲内では、iPhoneのような高額端末の販売量自体を減らす可能性は高いものの、iPhoneびいきを解決するまでには踏み込めておらず、現在の傾向は当面続くと考えられそうだ。

ゆえに、今回の施策で最も大きなダメージを受けると見られるのは、Andoridのハイエンドモデルを主に提供しているメーカーではないかと考えられる。特に国内メーカーは、日本のみで展開している企業も多く日本市場の動向が生命線となっていることから、今回の総務省要請によって中期的に撤退するところが複数出てくるかもしれない。また日本で展開している海外メーカーも、規模の縮小や撤退、そこまでいかなくてもハイエンドモデルの提供取りやめなどといった戦略変更を余儀なくされる可能性が高いだろう。

低価格モデルが台頭?

一方で、今回の総務省要請がプラスに働くと見られるのが、低価格モデルに強みを持つメーカーだ。最近はミドルクラスのスマートフォンであっても、普段使いには十分な性能を持つことから、かつてとは異なりキャリアは最近、比較的安価な端末の導入に積極的になっている。それゆえ現在、SIMフリー市場で比較的安価なスマートフォンを提供している中国・台湾などのメーカーにとっては、ハイエンドAndroid端末メーカーの減少を受ける形で、キャリア向けビジネスに参入できるチャンスが生まれてくるかもしれない。

「ZenFone」シリーズで人気を獲得したASUSなど、SIMフリー市場で人気の中・低価格帯に強いメーカーが、今後キャリアへの端末供給に参入してくる可能性も考えられる

スマホ料金是正で結果的にどうなるのか

では結果的に、日本のスマートフォン市場はどうなるのだろうか。まずiPhoneに関しては、現在と傾向は大きく変わらず「iPhone一択」が続くと見られるものの、価格高騰の影響を受けて販売量自体はやや減少するだろう。一方でAndroid陣営は、多くのハイエンドモデルが姿を消し、代わりに安価なミドルクラスの端末が勢力を拡大すると推測される。

こうした市場構造は海外のものに近いといえ、総務省側も日本が海外と同様の市場構造になることを好ましいとしているようだ。だが一方で、このことは通信事業において日本の独自性を失わせることにもつながっており、通信市場全体で一層日本の存在感が低下する可能性が高まることが、気がかりなところでもある。

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