ベンチ【9】 | たまに更新してます♪

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何気に過ごした今日という日。
それは昨日亡くなられた方がどんなに願っても手に入れる事の出来なかった明日という日。


初めての人は1話目から読んでね(。・_・。)ノ"





そんなことを考えてるうちにどれくらい経ったのだろう、


「ちょっとあそこで休もうか」と学が言った。



学の肩越しにみた先には、バス停のベンチがあった。


貴子は自分のことばかり考えていて、学が疲れることに考えが及んでいなかったことに気付き


「はい、どうもすみませんでした」と意味が通じない返事を返してしまった。



学の背中から降りた貴子は、そのままベンチに座った。


すると学はおもむろに


「何がいい?」と貴子に尋ねてきた。


「炭酸、ジュース、お茶、コーヒー、どれにする?」とまた聞いてきた。


学はベンチのそばにある自動販売機の前にいて飲み物の種類を尋ねたのだ。



あわてて貴子は「お茶にします」と応えたが、学が手ぶらなのを見て


「あのぉ、お金は私が出します」


貴子は自分のバックから財布を出して学に言った。



「いいよ、これはおごり。俺は今日は家からこのジャージで来たから、帰りに友達とジュースを飲もうと思ってこうして小銭を持って来てるんだ。ささやかな夏休みの部活の楽しみさ」


そう言って学はジャージのポケットから小さな小銭入れをだして、二人分の飲み物を買った。



「はい、お茶」


学は座っている貴子にお茶を渡し、そしてベンチに並んで座り買ったコーラをゴクゴクと飲んだ。



「どうもありがとうございます」


貴子も恐縮しながらお礼を言って、お茶のキャップを開け一口飲んでみた。


今日は暑い日だったので、その一口がとても美味しく感じた。



「足、大丈夫か」


一息ついた学は貴子の足を見ながら尋ねた。



「はい、こうしていると全然痛くはないんです」


貴子はくじいた足の方を真っすぐ伸ばしてそう答えた。



「そういえば、お前の名前聞いてなかったな。なんていうの」


「はい?!。あっ、水沢貴子といいます」


突然名前を聞かれて少し驚きながら貴子は答えた。



「そうかぁ」


学はそれだけ言って、またコーラを飲みながら何を見るともなしに視線は前を向いていた。


そいてしばらく二人の会話が途切れなんとなく手持ち無沙汰になっていたので、貴子は話題を見つけて学に話かけてみた。



「私、先輩のこと部活に入る前から知っていたんですよ」



そういわれて学はビックリして


「ホントに?どうして知ってたの」と貴子に問い返した。



「ちょうど体験入部の一週間前に、先輩がグランドを走っているのを教室の窓から見かけました。

 あのときは変な走りをしてたから結構めだっていたんですよ」


そう言って貴子はあのサボりの走りを思い出してクスッと笑った。



「変な走りってなんだよ?」


学はちょっと戸惑い、貴子に問い返した。



「だって、体育館から見えるところはちゃんと走るのに、見えないところではダラダラ歩いていて」


そう言って貴子はまたクスッと笑ってしまった。



「なんだ。アレを見てたのか。あれは必殺の省エネ走りなんだよ。まぁ必殺って言ってもだれも殺さないけど」


学はそう言っておどけたが、貴子は学が突然ギャグを言ったので、それに合わせられず返事が上手く返せなかった。



ギャグが受けずにまた少し気まずい空気になったので、今度は学から話題を振って来た。


「それじゃ俺もお前が入部する前から知ってたよ」


今度は学が貴子を驚かせた。



「えっ、それ嘘でしょ?だってそんなことありえないですよ」


貴子はもしかして自分の顔が真っ赤になったんじゃないかと恥ずかしかったので、目いっぱい否定してしまった。



「前って言っても、体験入部のとき。おまっ、あっ、水沢、今日保健室まで連れてきてくれた子と一緒にいたでしょ」



『あっ、あの時のこと覚えていてくれたんだ』


貴子はびっくりと同時にとても嬉しかったが、なんて言っていいか判らず無言でうつ向いてしまった。



学もその仕草を見て『ちょっとストーカーみたいだったかな』と思い、


「ゴメン。気に触った?」そう言って黙り込んでしまった。



そしてまた無言の時間が始まった。


貴子は自分が嫌がったと勘違いされたと思いどうしていいか判らず焦ってしまったが、このままではダメだと決心して


「嬉しかったです」と言った。



しかしあまりに声が小さかったため、学は


「えっ?」と聞き返してきた。



「覚えていてくれて嬉かったです。でもそれが凄く恥ずかしいです」


貴子は腹が座ったのか、今度は自分でも信じられないくらい冷静に言葉を返せた。



「どうしてそれが恥ずかしいの?」


学は貴子が言う意味が判らず問い返してみた。



「だって、嬉しいってことが知られれば、そこにある気持ちが見透かされてしまうわけで・・・」



「ちょっと、お前何言ってるんだよ。

そういうこと突然言うなよな。

そんな風に言われたら、今度はこっちが恥ずかしくなってしゃべれなくなるだろぉ」


今度は学の方が赤くなって、慌ててしまった。



「あっ、ごめんなさい! そんなに深い意味があるんじゃないけど、先輩に憧れてるっていうか・・・」



「だから、そういうこと面と向かって言うなよ。

俺、苦手なんだそういうの。てか、恥ずかしいじゃん。

しかしお前、よく平気でそんなこと言えるなぁ」


学は、貴子が弁解をしている言葉をさえぎるように言い、関心したように貴子を見た。



「違います。こんなこと平気でなんて言えないです。でも先輩が聞くから」


貴子はそう言って慌てて否定した。



「なんか、お前面白いな。

俺、女の子とこんな話したことないけど、なんかお前とはそんなに恥ずかしくないや」


そう言って学は少し笑ってみせた。



『どういう意味なんだろ?』


貴子は学の言った意味がよく分からなかったが、それでも二人の間の気まずさが無くなったことの方が嬉しかったので、そのまま聞かずにいた。



そしてまたしばらく沈黙の時間が続いたが、今度の二人の沈黙には緊張感は無くなっていた。



「よし、それじゃ後半分くらいかな。このまま一気にお前の家まで行こうか」


そう言って学は、貴子が飲み終わった空のペットボトルを受け取り、自分の空き缶と一緒にゴミ箱に捨て、そしてベンチに座る貴子の前に背中を向けてしゃがんだ。



貴子も今度は抵抗なく、学の背中に自分のバッグを挟んでおぶさった。



「それじゃこの先、お前の家まで案内しろよな」


立ち上がりながら学がそう言った。



「あのう、水沢です」


貴子は学が自分の名前を忘れたと思いそう言ったのだが、



「ばか。お前がさっき変なこと言ったから、きょうは水沢じゃなくてお前呼ばわりしてやる」


そう言って学は笑った。



「えぇ~酷いぃ」


貴子もおどけてそう言った。


そして、自然とそう言えたことが貴子は嬉しかった。



《おしまい》




皆さん、最後までお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

とりあえず当初予定の二人の出会いまでがここに完結しました。

読み辛いところもあったかと思いますが、毎度のコメントが嬉しかったです。

どうもありがとうございましたm(_ _)m